「3割が60歳以上」「子どもには勧めない」 消化器外科医が激減! がん患者が行き場を失う未来も

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 すでに到来した超高齢社会において、最大の懸案といえよう。今後、増加が見込まれるがん患者を診る「消化器外科医」が不足し、なり手確保のめども立っていないという――。科学ジャーナリストの緑慎也氏が「外科医クライシス」の実態をレポートする。

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 がんの代表的な治療法には手術、放射線、薬物があり、このうち最も選択されることが多いのが、メスでがんを直接切り取る手術だ。その担い手である消化器外科医の数がいま、減少の一途をたどっている。日本消化器外科学会の予想では「20年後に半減」するというのだ。

 富山大学附属病院消化器・腫瘍・総合外科の藤井努教授は、消化器がんの手術件数が今後10年で激減する可能性があると指摘する。

「現在、日本消化器外科学会の会員の3割は60歳以上であり、定年(65歳)が近いためです」

“花形”のはずが定員割れも……

 消化器外科医は基本的に同学会に所属する。その会員数は約1万9000人。うち3000人ほどは勤務医の定年を超え、開業医として診察を行い、また管理業務はこなしても執刀はしない医師たちだ。つまり国内に存在する現役の消化器外科医は、実質的に1万6000人。ただし定年前であっても集中力や視力、体力の衰えを感じ、55歳を過ぎたあたりから執刀をやめたり減らしたりするケースも多いといい、実働人数はこれをさらに下回ることになる。

 同学会の会員数は1999年の2万1826人をピークに減少し続け、2018年に2万人を下回った。がんの手術需要が減るのであれば消化器外科医が減ったところで問題はないが、現実にがん患者の数は増えつつある。

 その上で、現在の手術需要を満たすためには、

「2万人の消化器外科医が必要です」

 藤井教授は、そう警鐘を鳴らす。

「消化器外科は、00年ごろまでは医学部卒業生の1~2割が選ぶほど“花形”の科でした。ところが最近では定員割れも珍しくありません。学会の事務局によれば、過去5年間の平均入会数497人に対し、退会数は708人。毎年、約200人減っている計算になります」

若手が避け、ベテランも逃げ出す消化器外科

 その減少の理由は、若手人材の供給が滞っていることだけではない。

「驚いたのは毎年、退会者の半数を超す450人以上が65歳未満だったことです。キャリアの途中で『もうやってられない』と消化器外科から離脱したのだと思われます。おそらく他の科、たとえば内科に転じるなどして開業する道を選んだのでしょう」(藤井教授)

 若手が避け、ベテランも逃げ出す消化器外科。人材不足の影響は、とりわけ地方で顕在化している。

「若手医師は都市部に集中し、地方には残りません。東京には細分化された診療科ごとに専門医が大勢いるので、自分の専門以外の治療をする機会はさほどありませんが、地方の医師は『何でも屋』にならざるを得ないのです」(同)

 本来ならば消化器内科が担うはずの抗がん剤治療や内視鏡治療をはじめ、救急医がすべき救急医療、さらに医療過誤や事故を防ぐ安全管理、感染症対策、はては栄養管理まで……。病院運営に関わる業務全般を、消化器外科医はしばしば背負い込まされるのだという。

「私の専門は膵臓ですが、だからといって『膵臓の手術しかやりません』などとは、とても言えません」

 と、藤井教授。医師の地域偏在は以前から厚労省でも問題視されてきた。04年から新しい臨床研修制度がスタートし、研修医は基本的に自由に研修先を選べる(希望を踏まえて病院とのマッチングが行われる)ようになった。その結果、彼らが都市部に集中し、地方の医師が不足する状況が生じたのである。

 卒業後も地域の病院に残ることなどを条件に入学させる医学部の「地域枠」や、研修病院の募集定員の設定など、厚労省も手を打ってはきたものの、今なお偏在は解消していない。

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