「薬を飲まない薬剤師」が明かす“薬漬け”のリスク 「1日17錠飲んでいたが現在はゼロ」

ドクター新潮 ライフ

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患者の当然の権利

 ポリファーマシーの危険性は分かった。でもそう言われても、現実問題として医者に対し薬のことをあれこれ聞くのははばかられる……。このように考える人も多いでしょう。でも、「お医者さま」をあたかも人間界の頂点に君臨しているかのように敬い、畏(おそ)れるのは、誤っていると思います。

 私が白衣を着ていた当時、こんな患者さんの姿を見かけました。帯状疱疹と診断され、医者から処方された抗ウイルス薬の支払いをしようとすると金額は1万円を超えていた。持ち合わせがなかったその患者さんは、「すぐに下ろしてきますので」と言いながら、慌ててコンビニのATMを目指して走っていった――。

 これでは医者の「言いなり」です。このように、あまりに医者に「無抵抗」な患者さんを、私はたびたび目にしました。

 本来、その薬の効果をよく聞いた上で、「それくらいの効果なのであれば、費用対効果を考えると無駄なので、そんな高額な薬は要りません」という選択肢を患者さん自身が持っていてしかるべきです。

 医者は絶対的な存在ではありません。Aという医者が気に入らなければ、Bという医者に診てもらうのは患者さんの当然の権利です。しかし、日本の現実はそうはなっていません。ずっとAに診てもらっていたのにBに診てもらうのは“浮気”であるかのような後ろめたさを感じる、という患者さんが珍しくないのが実態です。

 そして、この浮気を隠すために、お薬手帳を病院ごとに使い分けている患者さんが存在します。本当はいくつもの病院に行っているのに、そのことを医者に知られるのは気まずいという理由からです。これでは、お薬手帳の意味がありません。AでもBでも同じ痛み止めが処方されているといった危険をチェックするのがお薬手帳の大事な役割の一つなのですから、必ずお薬手帳は1冊にしてほしいと思います。

減薬の進め方

 でもやっぱり、「お医者さま」にその薬は必要ですかなんて聞きにくいというのであれば、ぜひ薬剤師を活用してください。医者以上に「薬のプロ」である薬剤師は、医者よりは、身近な存在でしょう。薬剤師には薬の効果などを“気軽に”相談しやすいのではないでしょうか。そのための薬剤師でもあるのです。

 さて、より具体的に、どうやって減薬を進めていけばいいのでしょうか。

 先ほど私は、とりわけ問題視しているのは何となく言われるままに飲み続けている薬だと述べましたが、日本で処方される薬の多くは、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病用のものだとされています。従って、これらの薬の服用を見直すことが、減薬への近道になります。

 ここで、「薬は病気を治すものではない」という冒頭の話に戻ります。例えば高血圧の人に出される降圧剤は、高血圧の原因そのものを治すわけではありません。だから、「一生のお付き合い」と言われるのです。よくなったと思って薬をやめたら、また血圧が上がってしまってかえって危険ですよ、と。

 よく考えてみてください。薬を飲んで病気が治るのであれば、薬の数は減り、やがてゼロになるはずです。ところが、生活習慣病を患っている人の中には、薬の数が年々増えているという人が少なくないのではないでしょうか。これが、薬はその多くが病気を治してくれるのではなく、症状を一時的に和らげるものだということを物語っています。つまり、病気を本当に治したいのなら薬に頼り過ぎてはいけないのです。

最後に薬

 私が薬漬けの生活から脱するきっかけとなったのは、厚生労働省が掲げている次のスローガンに気付いたことでした。

〈1に運動 2に食事 しっかり禁煙 最後に薬〉

 つまりは、薬を使う以前に生活習慣を見直すことが一番の「治療」だということです。

 考えてみれば当たり前の話なのですが、薬剤師としてポリファーマシーに悩む患者さんを何とかしてあげたいとの切実な思いでこのスローガンを見ると、その意味するところが改めて身に染みたのです。そして、私が1日17錠から0錠の生活へと足を踏み出す最初の一歩は、文字通り足を踏み出す、すなわちウォーキングを始めたことでした。それは、単に歩けばいいというわけではない、実に奥深い世界でした。ポイントは「量」より「質」にあったのです。

宇多川久美子(うだがわくみこ)
薬剤師。1959年生まれ。明治薬科大学卒業。総合病院に薬剤師として勤務していたものの、薬漬けの日本医療のあり方に疑問を感じ、白衣を脱いで「薬を使わない薬剤師」として執筆・講演活動などを始める。『薬は減らせる!』『断薬セラピー』『薬剤師は薬を飲まない』など多くの著書があり、累計発行部数は100万部を超える。

週刊新潮 2024年11月14日号掲載

特別読物「自ら1日17錠を0錠に… 『薬を使わない薬剤師』が教える減薬術」より

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