「薬を飲まない薬剤師」が明かす“薬漬け”のリスク 「1日17錠飲んでいたが現在はゼロ」
もらわなければ損?
政府は毎年11月を「薬剤耐性対策推進月間」と定め、薬剤耐性菌問題の啓発に努めていますが、薬剤メーカーをスポンサーとしているメディアがあまり報じないせいか、抗生物質の乱用はまだなくなってはいません。せっかくの機会ですから、ぜひ今年は「他人への迷惑」につながる抗生物質の乱用についてよく考えていただければと思います。
では、無駄なケースがあるのに抗生物質の乱用はなぜなくならないのでしょうか。その原因は、薬全体の乱用にも通じるものといえるでしょう。
〈体調を崩したので病院に行って薬をもらう〉
多くの人にとってごく当たり前のことだと思います。でも、私は違和感を覚えます。問題は〈薬をもらう〉という表現です。多くの自治体で子どもの医療費は無料になっていて、高齢者も75歳以上は原則1割負担。薬もタダ、あるいはタダ同然という感覚になっている人が少なくないのではないでしょうか。だから、〈薬はもらうもの〉という感覚になってしまう。
しかし、私たちは〈薬を買っている〉のです。タダでもらっているのではなく、私たち自身があらかじめ納めた保険料や自治体の公費(原資は税金)が補助に充てられているのであり、私たちは間違いなく薬を買っているのです。にもかかわらず、窓口では無料、あるいはとても安い自己負担額しか払わないので、薬をもらっていると勘違いしてしまう。国民皆保険は素晴らしい制度である反面、薬を処方してもらうことに対して国民にある種の“甘え”を生み出してしまっている面もあるのです。タダならばもらわなければ損だ、と。
「その薬、要りません」と断ることもできる
私が白衣を着て調剤の現場に立っていた頃、薬を出す量が少ないとあからさまにがっかりする患者さんを目にするのは珍しいことではありませんでした。本来、薬の量が少ないのは健康であることの証しであるはずです。ところが、「タダ=薬は病院からのお土産」とでも考えているのか、せっかく病院に行ったのに薬が少なかったと残念がる患者さんがいるという、何とも不思議な現象が起きてしまっているのです。
こうした背景もあって、ポリファーマシーが問題になっているわけです。国際的には5種類以上の薬を併用している状態をポリファーマシーと定義することが多いのですが、全国の保険薬局の処方調査では65~74歳の約3割が5種類以上の薬を併用しています。
薬を買うという感覚を持っていれば、私たちはもっと薬に関心を持つでしょう。その薬にはどんな効果があり、どれくらい必要なのかを吟味する。そうなると、望まない効き目だったり、費用対効果が悪い薬だったりした場合、「その薬、要りません」と断ることもできるはずです。
5種類以上の薬を飲む弊害
医療もサービス業の一つです。赤ひげ先生のように患者さんに真摯に向き合ってくれる医者がいる一方で、純然たるサービス業に徹し、ひたすらに儲けようとする医者がいるのもまた事実です。「ご一緒にポテトもいかがですか?」と勧めるファストフード店の店員さんの感覚で、「この薬もどうですか?」と、必ずしも服用しなければならないわけではない薬を処方する医者もいるのです。
薬が「商品」として提供されている以上、患者さん自らが要不要を判断することがあっても構わないはずです。「コスパ」を考慮して、大根1本298円だったら買わないけど、98円だったら買う。薬に関しても、もう少しこうした感覚を持ったほうがいいと思うのです。不要な薬によって健康をむしばまれることになるのは、医者ではなく患者さん自身なのですから。
実際、5種類以上の薬を飲んでいる高齢者は転倒リスクが高くなるなど、ポリファーマシーの弊害はさまざまに報告されています。
念のため付言しておきますが、私は、薬は絶対に飲んではいけないなどと主張しているわけではありません。止血剤のように急を要するケースに対処する薬は不可欠でしょうし、症状がひどい時にそれを緩和してくれる薬も大いに役立ちます。また、先天的な病気には薬は絶大な効果を発揮します。私がとりわけ問題視しているのは、何となく言われるままに飲み続けている薬のことです。
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