「薬を飲まない薬剤師」が明かす“薬漬け”のリスク 「1日17錠飲んでいたが現在はゼロ」

ドクター新潮 ライフ

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 加齢とともに飲む薬の種類が増えるのは致し方のないこと。不調を治すためなのだから――。疑うことなくそう信じている人も多いだろうが、果たしてそれ以外の道は本当にないのだろうか。自ら減薬を実践してきた薬剤師が、「薬との付き合い方」を指南する。【宇多川久美子/薬剤師】

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 私は薬剤師として、薬は人々の健康を支える「良いもの」だと信じ、みじんも疑っていませんでした。現在、65歳の私自身、30代の頃は1日17錠の薬を飲んでいました。しかし、15年ほど前からは一錠も飲んでいません。

 薬を飲んでいた時よりも、飲まなくなってからのほうが明らかに体調は良くなり、いまも、白髪や老眼の気配はなく、とても健康的に過ごせています。

 どうして薬をやめたのに健康になったのか。病気を治す薬の服用をやめたら健康は損なわれるはずなのに、矛盾しているのではないか――。そう思う人がいるかもしれません。しかし、ここにこそ、日本人の正しくない「薬観(くすりかん)」が表れているように思います。なぜなら、薬は病気を治すものではないからです。

“薬離れ”を実践

〈こう語るのは、総合病院に薬剤師として勤務していたものの白衣を脱ぎ、現在は「薬を使わない薬剤師」として活動している宇多川久美子氏だ。

『薬は減らせる!』等の著書の累計発行部数が100万部を超える宇多川氏は、多剤併用(ポリファーマシー)の弊害など「薬の問題点」について啓発活動を続け、自ら“薬離れ”を実践してきた「減薬のプロ」でもある。

 薬の乱用に関しては、今年9月に世界五大医学誌の一つである「ランセット」にこんな推計結果が掲載された。

 抗生物質(抗菌薬)を使い過ぎることで生まれる薬剤耐性菌(抗菌薬への耐性を獲得した細菌)によって、2050年までの25年間で世界で3900万人を超える死者が出る。「サイレントパンデミック」とも呼ばれる薬剤耐性菌の脅威は増すばかりだ、と。

 宇多川氏が、薬の乱用の問題点と、減薬について続ける。〉

薬剤に耐性を持つ菌が次々に

 抗生物質は、細菌による感染症を抑える上では極めて大きな威力を発揮します。しかし、ウイルスの感染に関しては全くもって無力。そして、風邪の多くはウイルス感染によるものです。つまり、風邪の患者さんに抗生物質を出しても意味がないのに、日本では長らく風邪に対しても抗生物質が処方されてきました。

 このような抗生物質の“無駄遣い”に加え、家畜の飼料にも抗生物質が混ぜられるなどしているため、抗生物質という“敵”と対峙する機会を多く与えられた細菌は鍛えられていきました。そして敵よりも強くなり、抗生物質が効かない、つまりは人の命を奪う力が強い薬剤耐性菌が次々と生み出されていったのです。

 抗生物質の乱用の罪深さは、過度に服用している当人の問題にとどまらない点にあります。例えば、幼い子どもを持つ母親の中には、わが子が風邪と診断されると抗生物質を欲しがる人がいます。繰り返しになりますが、その風邪がウイルス性のものであれば抗生物質には何の意味もありません。しかし、そうした知識を持たずに、「風邪には抗生物質が一番」と信じ、あるいは「お守り代わり」のようにして抗生物質を処方してもらい、子どもに飲ませる。

 これは、お子さんに無駄な抗生物質を服用させているだけでなく、その無駄な服用によって新たな薬剤耐性菌の出現を誘発し、結果的に社会全体、とりわけ免疫力が落ちている高齢者に迷惑をかけることにつながってしまうのです。

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