「逃げ恥」の脚本家が壮大なスケールで描く社会派ドラマ「海に眠るダイヤモンド」の核心部分

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いづみの正体は朝子か

 2018年の東京編で破壊の原因となるのは金。これも夏八木の言葉どおりである。

 ゼネコン社長で資産家の池ヶ谷いづみ(宮本信子)は冴えないホストの玲央(神木隆之介、2役)に近づく。玲央が鉄平と瓜二つだったからだ。いずみにとって鉄平は「忘れられない人」だった。

 いづみは冗談とも本気ともつかない表情で、玲央に「結婚して」と迫る。本当にそんなことになったら、いづみの長男・和馬(尾美としのり)と長女・鹿乃子(美保純)はたまらない。いづみから相続する財産が半分になってしまう。このため、いづみを束縛し、玲央を疎んじる。

 2人は金が入らないと困るのだ。和馬は怠惰で、鹿乃子は贅沢。その娘の千景(片岡凛)は医学生だが、ホストに入れあげ、売掛金が400万円に達していた。いづみと和馬、千景の関係は冷え切っていた。

 玲央が「(夜のお店もこの家も)ドブだね」と笑ったのは第3回だった。いづみは反論できない。夜のお店も池ヶ谷家の豪邸も遠巻きで眺めるとキラキラしているが、内面は淀んでいる。

 端島と逆なのである。端島は偏見から本土の人間に見下される。島民たちも住んでいるとその良さが分かりにくい。辰雄のように露骨に島を嫌う人間もいる。朝子も閉塞感を抱いていた。

 だが、同じ第3回、朝子は鉄平に連れられて近くの無人島・中ノ島に渡る。1本桜を見るためだ。そのまま端島の夜景を見た朝子は「キラキラ」と顔を輝かせた。野木氏による暗喩である。1955年より現代が何もかもいいとは限らない。

 2018年のいづみは経済的には豊かだが、玲央から「1人だね」と指摘されると、返す言葉がなかった(第3回)。一方、端島では炭鉱内で誰かが行方不明になると、嫌われ者であろうが、炭鉱員全員で命懸けの救助を行った(第1回)

 いづみが誰なのかはまだ分からないが、百合子か朝子かリナの誰かであるのは間違いない。鉄平がリナに告げた「人生変えてみないか」という言葉を、いづみは玲央に言ったが、これでリナをいづみと決めてしまうのは早計だろう。

 いづみは邸宅の屋上に1本桜を植えている。同じ第3回、その木を玲央と眺めたとき、映像がオーバーラップし、中ノ島の鉄平と朝子の姿に変わった。ここにヒントがあるのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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