「新庄監督」にあって「立浪監督」に無かったもの 郡司裕也の起用法が浮き彫りに
立浪監督と新庄監督に見る、マスコミへのコメントの違い
立浪監督との違いについて、もう一つ触れる。マスコミに発するコメントだ。
コメントについては、瞬時に発する言葉なので、誰に教わったということではなく、本人の資質によるところが大きい。それを踏まえての話になってしまうが、「真面目な立浪監督」と「ユーモアあふれる新庄監督」との違いが浮き彫りになっている。
2022年5月4日の横浜スタジアムでのDeNA戦で、立浪監督は試合中に京田陽太を二軍へ強制送還した。その理由は、「戦う顔をしていないので外した」というものだった。こう言われてしまうと、「戦う顔ってどんな顔なんだ?」という疑問が湧いてくる。阿修羅のような顔をしていればいいのか、苦しげな表情を浮かべていればいいのか、答えはわからない。立浪監督は、激励の意味を込めてそう言ったのかもしれないが、ドラゴンズファンの間で侃々諤々の議論となった。
私は「立浪監督らしい意見だな」と思うと同時に、「一時が万事、こんな体育会的なコメントばかりでは、選手も苦しんでしまうんじゃないか」と危惧したものだ。もちろんプロ野球選手としてお金を稼いでいるのだから、多少なりとも厳しいことを言われるのは当然だとしても、真面目一辺倒では、聞いている選手も疲弊してしまうんじゃないかと思えたのだ。
ただし、この項の冒頭でもお話しした通り、瞬時に発するコメントというのは本人の性格によるところが大きいので、これを否定してしまうと立浪監督らしさというのが失われてしまうという面もある。真面目であることは決して悪いことではないが、それが「時として選手を苦しめることにもつながりかねない」と彼のコメントを聞きながら感じた。
清宮に発した「デブじゃね?」は大きな話題を呼んだ
対して、新庄監督はユニークな表現で選手をとらえていた。たとえば清宮幸太郎についてである。清宮は、早稲田実業から高校通算111本塁打の実績を引っさげて、2017年のドラフトで7球団競合の末、日本ハムに入団した。だが、入団から4年間は思うような実績を残すことなく、2021年シーズンはとうとう一軍出場がゼロという結果に終わった。
この年の秋、新庄監督が日本ハムの監督に就任。秋季キャンプで新庄監督が清宮に発したのは、
「ちょっとデブじゃね?やせない?やせたほうがモテるよ。かっこいいよ」
という発言だった。清宮が、「やせてしまったら、打球が飛ばなくなるのが怖いです」と返すと、新庄監督はすぐさまこう答えた。
「変えないと。今もそんなに打球が飛んでないよ。昔のほうがスリムじゃなかった?それはキレがあったから。今はちょっとキレてない気がするから、やせてみよう」
このやりとりには思わず笑ってしまったが、一方で「新庄監督は理にかなったことを言っているな」と感じた。今のプロ野球選手はとかく体を大きくすることに必死だ。これは打者に限った話ではなく、投手もしかりである。
その理由を聞くと、「スピードが出ないから」「打球が飛ばないから」で、すべてはメジャーリーグに起因しているという。私としては、「おいおい、ちょっと待ってくれ」と言いたいところだが、新庄監督が清宮にぐうの音も出ない理由をズバリ指摘してくれた。
そもそも清宮に体型のことで意見する人は、それまで誰もいなかった。それだけに清宮も驚いただろうが、こういうコメントが大々的に報道されると、「はたして清宮はやせるのだろうか?」と、野球解説者だけでなく、一般の野球ファンも彼の動向に注目する。そうして数か月後の春季キャンプで清宮がやせた姿で登場すれば、「本当にやせたんだ!」とみんなが感心する。
一見、新庄監督の言っていることは厳しく聞こえるかもしれないが、核心を突いているうえにみんながこぞって「どうなるんだろう?」と興味を引くようなコメントを残している。この点は立浪監督よりも新庄監督のほうが上手だったように思える。こうしたユーモアに富んだコメントの有無も、結果的に日本ハムと中日の差となって表れたように感じた。
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この記事の後編では、同じく『ミスタードラゴンズの失敗』(扶桑社)より、立浪氏が現役時代、星野仙一監督から学ぶべきだった「重要ポイント」について取り上げる。