元風俗嬢の妻に「風俗通い」がバレた… その“思い当たるふし”に44歳夫に芽生えた猜疑心

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ほとんど確信。誠太郎さんが取った行動は…

 それからはしばらく店には足を向ける気にならなかったのだが、夏前のある夜、彼はその店の前まで行ってみた。電話をかけて、妻の昔の源氏名を告げてみると、「おなじみさんでしょ? 彼女は戻ってますよ。名前変えたけど、昼間いるから」と聞いたことのある男の声がした。そんな簡単に教えるなよと彼は心の中でつぶやいたという。

 だがそのことを、彼は妻には伝えていない。その日は結婚記念日だったため、彼は大きなバラの花束を抱え、妻の好きな店のケーキを買って帰った。

「花を渡しながら、これからもよろしくと言うと、こちらこそと妻は言いました。息子が『仲良しだー』と笑った。お互いにモヤモヤしながらも、何かをあきらめて夫婦を続けていこうと決めたんだと思う。そこからなんとなく、うまくいっています。妻は夜はちゃんとごはんを作ってくれるし、僕も早く帰るようになった。店には今のところ行っていません。行くとしたら別の街に行くと思う」

 妻がそういう仕事をしていることには特に抵抗はないと誠太郎さんは言う。抵抗があるなら結婚なんかしていないし、と。だが結婚してから復帰したとなると話は違うのではないだろうか。

「彼女がどういう思いでやっているのかは知りたい気もするんです。お金が足りないのか、あの仕事が嫌いじゃないのか。ああ、でもやっぱり知らないほうがいいかもしれない」

お互いさまの夫婦

 深刻に考え始めると、おそらく結婚生活は破綻する。妻もそう思っているから、表面上、仲よくしていくことに決めたのかもしれないと彼は言う。ただ、誠太郎さんは妻を嫌いになっているわけではない。むしろ、息子に執着しなくなった妻を偉いとさえ思っているのだ。夫婦として性的な関係はないが、一緒に暮らしていくには不満はなかった。

「それでも話し合いを始めたら、きっと破綻する。そんな気はしています。春那が僕を本気で愛しているとは思えないんです。彼女は僕の説得に応じて結婚してみただけなのかもしれない。でも、それほど不快ではない生活だから、アルバイトという息抜きをしながら生きていけばいいやと思っているんじゃないでしょうか。お互いに風俗から離れられない男女なのだとしたら、なんだか皮肉な話ですよね。今のところ落ち着いているので、わざわざ波風立てることもないなというのが本音です」

 話しあえばお互いの気持ちがもっと深く理解できるのではないか、そこから新たな夫婦の歴史が始まるのではないか。そう思うが、言うは易し行うは難しというところだろう。下手に突きつめると何が出てくるかわからないリスクもある。あるいは、ふたりには、ふたりにしかわからない暗黙の了解があるのかもしれない。

 不思議な夫婦のように聞こえるかもしれないが、心の底ではお互いへの最低限の信頼がしっかり根づいているのではないか。淡々と去っていく誠太郎さんを見送りながら、そんなふうに感じていた。

 ***

 妻との独特の距離感は、誠太郎さんの育った環境で育まれたものかもしれない――。自由な父のもとで育った奇妙な幼少時代は【前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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