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藤竹が激高した理由

 第3回の藤竹は起立性調節障害(起立時にめまいなどが起こる自律神経の機能失調)のため、保健室登校を続けている1年生の名取佳純(伊東蒼)を科学部に入部させる。藤竹は佳純が天文学に興味があることをメモ書きから読み取っていた。

 第4回で科学部に入ったのは70代の元町工場経営者・長嶺省造(イッセー尾形)。長嶺はクラスで孤立していた。大半の生徒と大きな年齢差があるため、つい「最近の若いもんは」と説教をしてしまうからだ。

 その上、度を超して授業に熱心なのだ。「先生、もう1回言ってください」。頻繁に授業をストップさせた。若い生徒たちはうんざりするが、一方で長嶺は現代の若者が甘えているように見えて仕方なかった。

 年齢差による対立に終止符を打てたのは長嶺が授業内で講演を行ったから。藤竹の勧めだった。長嶺は貧しくて高校に行けず、中卒で集団就職したこと、その悔しさをバネにして懸命に働き、会社を興したこと、本当に定時制に入りたかったのはやはり中卒で働き、今は闘病中の妻・江美子(朝加真由美)であることを話した。当初は渋々聞いていた若い生徒たちの表情は徐々に神妙になる。

 長嶺が授業に熱心なのは江美子に授業内容を完璧に伝えるためだった。それを藤竹は知っていた。長嶺に内緒で江美子の見舞いに行っていたからだ。

「あんた食えないね」(長嶺)

 長嶺も講演でウソをついた。本当は江美子以上に定時制に通いたがっていたのである。それも藤竹は江美子から聞かされていた。

 教育に関する問題だけでなく、無国籍の人の就学問題、人種や経済問題を理由とする差別問題、世代格差問題なども考えさせる。それもこの作品が観る側を引き寄せる力になっている。

 第5回。柳田、アンジェラ、佳純、長嶺による科学部メンバーは火星のクレーターの再現実験を始めた。藤竹は関東高校生科学発表コンテストへの参加を提案する。4人で話し合い、出ることを決めた。ところが、参加できなかった。

 定時制の参加は前例がないからだった。説明した教頭に藤竹は激高する。

「そんなの理由にならない!」

 常に冷静な藤竹が怒りを見せたのは初めてだった。生徒たちのことを思うと、感情は抑えられなかったのだろう。

 前例主義、異端者の排除は日本の伝統のようなものだが、学びの場にまで持ち込むのは行きすぎ。藤竹と科学部が攻勢に転じるに違いない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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