89歳の作業員が“事故死”の衝撃…「65歳以上の働き手が4分の1」を占める建設業界の深刻すぎる“高齢化”

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現場から姿を消すニッカポッカ

 最後にもう1つ、違う側面から現場の危険にまつわる話を紹介したい。

 中高年世代に「建設現場の作業服はどんなものか」と問うたら、その多くが「ニッカポッカ」をイメージするのではないだろうか。

 ニッカポッカとは、建設業のなかでも鳶職など高所で働く作業員が好んで着ていた、裾がヒラヒラしているズボンのこと。ちなみに語源は英語で「Knickerbockers(ニッカーボッカーズ)」というゴルフなどでよく着用されていたズボンの名前だとされている。

 このニッカポッカは、昔から日本の工事現場における定番の「制服」だった。

 諸説あるが、あの「ヒラヒラ」は高所で風の向きや強さを読んだり、障害物に触れる感覚で危険を予測したりするためのデザインだと言われている。しかし昨今、そんな定番の作業服が、多くの現場で着用禁止になっているという。

 その理由の1つは、「ヒラヒラしていて危ないから」という、皮肉なもの。

 冒頭の表からも分かる通り、建設業界をはじめとするブルーカラーの現場では「挟まれ・巻き込まれ」による事故がよく起きる。その巻き込まれるものの代表格が、作業員の衣服だったりするのだ。

 こうしてニッカポッカのヒラヒラは、昔の「危険予測の道具」から、「危険因子」という真逆の解釈がなされるようになり、徐々に姿を消しつつあるのである。

 ちなみに、このニッカポッカが禁止されるようになったもう1つの理由が「ガラが悪く見えるから」というまさかの「見た目」。

 これでいうと、同じ「見た目」の理由からブルーカラーの現場では一部「日焼け防止として半袖の制服の下に長袖を着ること」を禁じているケースがある。その「下に長袖」という着用の仕方が、「入れ墨やタトゥーが入っていていると勘違いされるから」だという。

 ブルーカラーは門戸が広く、多様な人がいることは間違いない。なかには本当にタトゥーが入っている人もいる。しかし、「入れ墨が入っているから、ガラが悪く見えるから悪人なのでは」という、外野の勝手な決めつけによる現場の行動の制限は、結果的に現場の労働環境を悪化させたり、人手不足を加速させたりするきっかけにすらなる。

 こうした声を聞くたびに、実は現場が対峙している一番の危険因子は、こうした世間からの偏見なのかもしれない、と思うのだ。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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