「8割近くが給与に不満」「過労死ライン超えの職場の割合は…」 消化器外科医激減で医療崩壊の懸念が

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アルバイトもままならず

 前出の黒田医師が語る。

「外科にもいろいろあり、緊急手術がほとんどなく、また術後の管理にさほど手がかからない科もあります。そういう科の医師は、朝方ちょっと患者さんの様子を見て、お変わりなければ平日の昼間でもアルバイトができる。それに対して私たち消化器外科では、昼夜を問わず患者さんの容態急変が発生します。アルバイトに充てられる時間も土日か、あるいは平日の18時から翌朝7時半といった『当直』勤務しか選択肢がないのです」

 家族と過ごす時間は言うに及ばず、日々の睡眠時間も犠牲にしながらバイトに励むことで、大学病院所属の消化器外科医らは、ようやく先に述べた水準にまで年収を押し上げてきたのである。

 医師の働き方改革は、消化器外科医に健康をもたらす一方で、アルバイトの時間を奪っていく。常勤先での時間外労働だけでも上限を守るのは難しいからだ。最悪の場合、結果として年収の半分以上を失うことになる。

「以前ならば、医師がお金の話をするのははばかられる雰囲気がありました。でも今の若い人たちはしっかりしています。研修医の先生から『消化器外科も他の科と給料が一緒なのですか』と尋ねられることがよくあります」(同)

楽して稼げる科に流れてしまう問題

 研修医は2年間、さまざまな診療科を経験したのち、自身の専門を決める。どこを選ぶかは基本的に自由。長い勉強時間にトレーニング期間、決して安くない学資をつぎ込んだ最終段階で、激務のわりに収入の低い科より楽をして稼げる科に流れるのはやむを得ない。だから、消化器外科医は減少の一途をたどっているのである。

 悪循環はすでに始まっている。いかに「チーム制」で負担を分け合ったところで、メンバーが減れば個々の負担が増えていく一方だから、若手医師はますます振り向かない。「医は仁術」の精神を体現しようにも、その担い手が消えようとしているのだ。

緑 慎也(みどり・しんや)
1976年大阪府生まれ。 出版社勤務後にフリーとなり、科学技術などをテーマに取材・執筆活動を行う。著書に『13歳からのサイエンス』(ポプラ新書)、『認知症の新しい常識』(新潮新書)、『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(共著、講談社)など。

週刊新潮 2024年11月7日号掲載

特別読物「医者はどこだ! ブラック・ジャックがいなくなる『がん多死時代』に 『消火器外科医』激減の医療崩壊」より

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