「8割近くが給与に不満」「過労死ライン超えの職場の割合は…」 消化器外科医激減で医療崩壊の懸念が
8割近くが給与に不満
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が2019年にまとめた報告書では、
〈医師は、医師である前に一人の人間であり、健康への影響や過労死さえ懸念される現状を変えて、健康で充実して働き続けることのできる社会を目指していくべきである〉
そううたわれている。両医師の勤務実態に鑑みれば、この部分は改善されつつあるといえよう。ところが、それでもなお消化器外科医の不足は深刻化している。国内の医師数は年々右肩上がりで、20年末の時点で約33万9000人と、20年間でおよそ8万4000人増加。これに呼応するように内科学会や循環器学会、形成外科学会などでは会員数が軒並み増えているのだが、ひとり消化器外科学会だけが10%以上の減少を見ているのだ――。
今回のアンケートからは、医師らが給与面で強烈な不満を訴えている現状が見て取れる。
回答によれば年収1000万円未満は9.2%で、1000万~1500万円未満が34.6%。1500万円以上が56.2%である。すさまじい過重労働に見合っているかと問われれば疑問は残るが、“医師は高給”という一般的イメージを崩すほどの低賃金ではないだろう。ところがアンケートでは、賃金に関する満足度について「全く不満足である」28.4%、「やや不満足である」48.3%と、8割近くが不満を示しているのだ。
7~8割の勤務医がアルバイトと兼務
なぜ消化器外科医は、決して少なくない年収に満足していないのか。その理由を考える上で注目すべきは「アルバイト」の特殊事情である。
国内の病院では一部を除き副業が認められており、7~8割の勤務医がアルバイトと兼務している。医師向けアルバイト紹介サイトを見ると、問診・聴診だけで時給1万円以上などとうたうところもある。この場合、週3日で6~7時間ずつ働けば、アルバイトだけで年収1000万円を突破する計算である。
常勤で得られる給与が低いほど、アルバイト依存度は高くなる。この傾向が特に顕著なのが大学病院の医師たちだ。黒田医師によれば、大学病院の基本給は市中病院の半分程度だという。従って合間を利用して働かない限り、市中病院の医師らの平均年収(1500万円)を大幅に下回ってしまう。
24年5月6日付の朝日新聞デジタル「夜中に緊急手術しても『時給500円』大学病院医師の訴えに教授は」との記事では、東日本の大学病院に勤めていた30代の男性医師の月収が「額面23万円、手取り18万円」と紹介されている。この医師はアルバイトで月60万円を得ていたという。常勤の月収がバイト代の3分の1なのだ。
アルバイト自体は若手から中堅、教授はもちろん病院長クラスまで幅広く従事しているのが現状なのだが、特筆すべきは大学病院の場合、どの診療科も等し並に扱われる点だ。内科や外科、小児科に眼科、皮膚科から産婦人科に至るまで、所属する診療科にかかわらず医師の基本給は同じなのである。
つまりは、暇な診療科の医師ほどアルバイトに時間を割いて収入アップを目指しやすく、忙しい診療科の医師は安い基本給に苦労するはめになる。後者の筆頭が、消化器外科の医師というわけだ。
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