「8割近くが給与に不満」「過労死ライン超えの職場の割合は…」 消化器外科医激減で医療崩壊の懸念が

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「しょっちゅう机の上で寝ていた」

 黒田医師によれば、勤務先で「医師の働き方改革」に向けた準備が始まる以前は、より忙しかったという。

「朝6時前に出勤して、帰宅は毎日、深夜0時前後でした。睡眠時間も含め、自宅で過ごせるのは6時間程度。土日も必ず出勤していました」(黒田医師)

「改革」以前の激務ぶりを別の医師にも証言してもらおう。北里大学病院一般・消化器外科(上部)の鷲尾真理愛医師は、今年2月に産休から復帰。が、それより前、医師になって間もない頃は緊急オペや患者の容態急変のため病院に泊まり込み、1週間以上帰宅できないこともしばしばだったという。

「カンファレンスは朝7時半から行われますが、その前に回診があるので7時には出勤し、8時から手術開始。夜まで続く時もありましたが、昼食を取らない日もありました。卒後10年ほどの間は病院に3日分ぐらいの着替えを用意し、しょっちゅう机の上で寝ていましたが、そんな働き方でも当時はおかしいとは感じなかった。体が“まひ”していたのでしょうね」

医師の健康と医療提供体制をてんびんに……

 もっとも、各病院で進められた業務改革のおかげで、現在は二人とも休息の時間が確保されるようになったという。

 冒頭で触れた時間外労働の上限規制が、今般の働き方改革のポイントだ。ただし勤務医は、所属する医療機関が特例申請することで年間1860時間までの残業が可能となる(それを超えると使用者たる医療機関の管理者は刑事罰に問われる可能性がある)。

 一般労働者の時間外労働の上限は年間720時間。医師のほうが長めに設定されている主たる理由は、医療提供体制の維持にある。オンラインでの予約や診療といった情報通信技術(ICT)の活用などで業務を効率化しても、おのずと限界はある。一般労働者と同程度の残業しか認められなくなれば、医師の長時間労働を前提に成り立ってきた日本の医療は瞬く間に崩壊する。医師の健康と医療提供体制をてんびんにかけ、前者を犠牲にして設定された“上限”なのだ。

主治医制からチーム制へ

 黒田医師の労働時間も以前より減ったとはいえ、依然として一般労働者に比べればはるかに長い。それでも「充実した日々を送っている」との実感はあるといい、

「第一に、家族と過ごす時間が増えました。以前ならば、家族旅行や子どもの運動会を理由に休みをもらうなど考えられませんでしたが、今では有給休暇も取得しやすくなりました」

 続けて、こう言うのだ。

「『主治医制』から『チーム制』に変わった影響は、やはり大きいと思います」

 主治医制とは、ある患者の診療から手術、術後の管理までを一人の医師がすべてカバーする仕組みである。一方、チーム制では複数の医師が情報を共有するため、たとえば診療はせず手術には参加する、あるいは手術はしたが、術後の管理は他のメンバーに任せるといったことが可能になる。

 主治医制では担当する患者の容態が急変した場合、土日でも病院に駆け付けねばならない。一方、チーム制ならば土日の当番医がその役割を担うことになる。

「野球に例えるなら主治医制は先発完投型で、チーム制は継投型でしょうか」

 黒田医師はそう表現する。また鷲尾医師が属する科でも、チーム制が導入されている。例えば手術時に、病巣の切除と再建でメンバーを入れ替えることにより、昼食の時間も確保できるようになった。そのメリットは、業務の効率化だけではないという。

「いかなエキスパートでも、食事や睡眠が不十分では集中力を保てません。チーム制によって、医療の質も上がったと思います」

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