受刑者の「不服申し立て」には高い壁…刑務官が“昇進”と“保身”ばかりに精を出す「塀の中」の知られざる現実
隠蔽と揉み消しで対応する刑務官
「刑務所からの口頭説明はありません。説明が全くないわけではなく、利用マニュアルみたいなものが読めるようにはなっているんです。けれど、書いてあることが難しくて普通の受刑者が読んでもほぼ理解できないものになってます。だからせっかく処遇の改善が行われ、苦情の申立てがしやすくなったのに、何も言えないままの受刑者がほとんどですよ」(Aさん)
それでもAさんは、約16年間も服役していたので、ありあまる時間の中でこの制度の手続きを必死に理解し、刑務官の横暴な態度に対して苦情申立て制度を利用してみたそうである。
規則通りに調査が入ったそうだが、調査員たちは刑務所内の細部にまで立ち入り調査することはできず、所長権限で指定されたエリアのみを見学する程度だった。そして、状況調査については刑務官が他の受刑者に偽証を要求して「その様な事実はなかった」と結論づけられた。Aさんは「隠蔽されたんですよ」と溜息交じりで明かした。要するに揉み消されたのだ。
隠蔽に加担した受刑者への見返りは、直接的なイジメの緩和や様々な監視の緩和だけでなく、近年ではインターネットで得られる情報を教えたりすることもあるという。
ネット検索が“賄賂”の刑務所
受刑者は娯楽室でテレビを見ることもできるので塀の外の出来事について関心を持つこともある。例えばグルメ情報だ。一般人ならスマホでネット検索を行い、情報を何でも入手してしまうが、受刑者はスマホを持っていないのだからそんなことができるわけがない。それでも知りたくなってしまうことだってある。
刑務所の中で服役しているのだ。食事が美味しいお店の情報なんか知っても意味がないと思う人も多いかもしれない。だが刑務所に長く暮らすと、意味のないことでも無性に知りたくなってしまうことがある。知ったところでお店に行けないことは重々承知しているが、いわゆる「外の風」に触れたくなる。そんな情報を刑務官から教えて貰うのである。
刑務所内では受刑者だけでなく職員や刑務官もスマホの持ち込みが禁止されているが、実際はスマホを制服の下に忍ばせている職員や刑務官も多い。そのため近年では、刑務官がネット検索の代行をして受刑者への見返りに悪用するケースも増えている。
話を苦情申立て制度に戻せば、せっかく新設されたにもかかわらず、調査段階で偽証まで行われて隠蔽されてしまうようでは、何のための制度なのかよく分からない。しかしCさんによると、それなりの効果もあるという。
査定が全てという刑務官
「苦情申立て制度は、職員や刑務官に対してかなりのプレッシャーになってるのも事実ですよ。医務がよくなったのも苦情申立てを恐れてですから。自分たちがつつかれるのが嫌だからやってる感じですからかなりのプレッシャーなんでしょうね」(Cさん)
刑務所内では炊事や洗濯など、施設運営に関する労働は受刑者たちに負わされていることが多い。そうなると職員や刑務官たちの日々の業務は実に限られた範囲内でしかない。
要するに彼らは、仕事で自分の実績を示す場が少なく、ミスによるマイナス判定が勤務査定の重要ポイントとなってしまう。こうした査定基準だと苦情申立てに関わった職員や刑務官は、降格や減給等の処分対象になりやすいばかりでなく、将来的な昇進にも大きく影響してくる。
刑務官にとっては査定が全てであり、業務の内容などどうでもいい──こうした傾向の具体例として、Aさんは刑務所における自殺防止対策を挙げる。
「自殺者が出ると査定的にやっぱりよくないみたいで、そうなった時には、夜中のカメラの監視映像を、15分おきのものなんですけど、それを証拠提出しなきゃならないんですよ。ちゃんと夜中の巡回はしてたんですけど、やられました、みたいな感じで。それもあって自殺防止対策として夜中の巡回も1エリア毎に15分に1回しなきゃいけないんですけど、いくら刑務官でも眠くなるじゃないですか」
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