受刑者を「さん付け」で“刑務所”は本当に処遇改善できるのか 刑務官がストレスを募らせる理由「1年も経たずに辞めていく新米刑務官も結構います」
ピントの外れた「さん付け」
ちなみに身体が太っている受刑者を「ブタ」と呼ぶわけではない。刑務所という「塀の中に閉じ込められた奴隷」という意味合いで「ブタ」という言葉を使っている。
さん付けに呼び方を変えても、それで刑務所内の雰囲気が変わり、体罰が減るというわけではなさそうだ。それはそうだろう。受刑者を「さん」と呼びながら、嫌がらせやイジメを行うことはできる。
さらに重要なのは受刑者が「自分たちをさん付けで呼んで下さい」と要望したことは一度もないということだ。処遇の改善を求めて受刑囚が裁判所に訴えた事例がいくつもあるが、その中に「さん付けで呼んでほしい」と求めた裁判はない。
そして監獄法が刑事収容施設法に変わっても、Cさんは刑務官から悪質ないじめ、パワハラを受けたと明かす。
「作業してる時、刑務官がこっちの顔を覗き込んでくるんですよ。作業してるこっちからすれば刑務官の顔が作業の邪魔になるじゃないですか。それで刑務官を見たら『おい、お前、今、作業台を見ずによそ見しただろ』で受刑者は懲罰房送りにされます」
江戸時代は即決死刑も珍しくなかった。だが、自由を奪って拘留する「戸〆の刑」と身体を虐待する刑は、それぞれ別の刑罰だった。一方、現代日本の刑務所では自由を奪う「懲役刑」に体罰も加わっている。これは大問題なのではないだろうか。
明け方に発生する自殺
Bさんが証言した通り、辛い刑務所での生活に耐えかね、自殺する受刑者も少なくない。所持品の規制が厳しい刑務所で、一体どのようにして受刑者は自ら命を絶つのだろうか。
「昔は鉄格子の間に頭を無理矢理に突っ込み、首を圧迫させて自殺したんですよ。鉄格子の隙間が強化板なんかで塞がれるようになってからは、工場で盗んだヒモをペンに巻いて、ヒモの間に首を通し、自分でペンをぐるぐる回して自殺するんです。完全に首を圧迫することができなくても呼吸は困難ですから、そのまま何時間か経つと死ねます」(Bさん)
刑務所の場合、昼間に自殺するのは相当に難しい。消灯時間後の夜中に起こるのが一般的だ。Bさんはため息交じりに「午前4時半ごろが多いです」と言う。
「夜明け前は刑務官の集中力も落ちる時間帯です。そして朝になって遺体が発見されます。自分の刑務所で自殺者が出た時は、ドアにわざと『就寝中』の札を掛けっぱなしにして2日間ぐらい遺体を放置していました。さすがに『何か変だ』と話題になりました。遺体遺棄罪に該当する可能性もあると思いますが、多分、刑務官同士で自殺者が出た責任のなすり合いをしていたんだと思います。決着が付くまで2日間ぐらいの時間が必要だったんでしょうね」
説明を嫌がる刑務所
Aさんに刑務所内での医療体制について質問してみた。
「監獄法が廃止され、刑事収容施設法に改正されてからは、確かに医療の状況はよくなりました。けれど、よくなったと言っても前があまりにも異常でしたからね。とりあえず申請すれば何らかの処置はしてもらえるようにはなった、ということです。ただ、刑務所長の方針によって、かなりの違いがあるのが実情です」
Aさんによると刑務所では医療も含め、受刑者は様々な申請を行えることにはなっているという。だが、きちんとした説明はないというのだ。
「刑務所に3年も服役している人でも、何をどうしたらいいのか分からないことも多いんです。職員や刑務官に質問しようとしても、大抵は反抗行為に扱われて懲罰房に送られます。だから受刑者は聞くに聞けないんですよ。所長の方針をある程度は説明してくれる刑務所もあるみたいですけど、基本はしません。あと『生活のしおり』みたいなものがあり、読むことはできるんですけど、回りくどい文面だし、ポイントもぼやけていて、何が書いてあるのかさっぱり理解できない人も多いんです」
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