受刑者を「さん付け」で“刑務所”は本当に処遇改善できるのか 刑務官がストレスを募らせる理由「1年も経たずに辞めていく新米刑務官も結構います」
2022年12月、名古屋刑務所で22人の刑務官が3人の受刑者に対し、暴行と暴言を繰り返していたと法務省が発表した。暴行の内容は「顔や手を叩く」、「コロナ対策のアルコールスプレーを顔に噴射する」、「尻をサンダルで叩く」などで、暴言は受刑者を「懲役」、「やつら」と呼んでいたという。(全2回の第1回)【藤原良/作家・ノンフィクションライター】
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そもそも名古屋刑務所では2001年と02年、肛門に消防用ホースで放水したり、腹部を革手錠つきベルトで締め付けたりして、受刑者3人を死傷させる事件が起きていた。
再び2022年に暴行・暴言事件が発覚したことで、有識者による第三者委員会が設置。委員会は「人権意識が希薄」と指摘し、受刑者の呼称について見直しを求めた。
この結果、名古屋刑務所では昨年8月から受刑者の名前に「さん」を付けて呼ぶ取り組みを開始した。さらに法務省は今年2月、刑務所や拘置所に収容されている全員をさん付けで呼ぶことを決めた。
果たして、さん付けで塀の中は変わったのか、今回は4人の関係者に話を聞いた。1人目は2006年から22年までの約16年間を刑務所で過ごしたAさん。2人目は14年間、刑務所に服役したBさん。3人目は全国各地の刑務所に服役した経験を持つ、前科11犯のCさん。
そして4人目として元刑務官にも取材を行った。本題に入る前に、まずは日本における刑務所の歴史を振り返っておこう。
牢屋と刑務所の違い
「貸した金を返さないから、相手と談判して取り戻した」──これを法律用語では「自力救済」と呼ぶ。司法手続きを取らず、私人が実力を行使して自己の権利を実現するという意味であり、現在の民事法では基本的に禁止されている。だが日本では昔から自己救済を原則とした歴史を持ち、俗に言う“狼藉者”や“罪人”には私的制裁を行うことが許されていた。
私刑を行う際、罪人は縛られて寺社境内の隅に置かれるのが一般的だった。牢屋の建設は戦国時代から認められ、江戸幕府が「最大の牢屋」といわれる伝馬町牢屋敷を開設したのは有名な話だろう。ただし今の刑務所とは全く違う。なぜなら当時は「犯罪容疑者を判決まで長期間、勾留する施設」や「多くの囚人を一カ所に集め、刑に服役させる施設」は必要がなかったからだ。
取り調べでは拷問が認められ、判決までの時間は非常に短い。また、火あぶり、引き回し、獄門(首をはねて3日間さらす)といった死刑もすぐに執行された。島流しなどの追放刑、むち打ちの刑、入墨刑、剃髪刑などの拘留が不要な刑罰も多かった。
結果、江戸時代の牢屋に収容された人々は、わずかにいた「戸〆の刑(閉じ込める刑)」に科せられた罪人と、刑が確定する前の詮議中の罪人が逃亡防止のために身柄を拘束される場合に限られていた。
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