日本シリーズ“ボール判定”に泣いた「ジョー・スタンカ」 野球選手になった驚きの理由(小林信也)
野村が「僕のミス」
スタンカの覚醒、そして栄光についても語る必要がある。
64年、スタンカは公式戦で26勝を挙げ、優勝に貢献した。日本シリーズの相手は阪神タイガース。初戦、村山実との投げ合いを2対0の完封で制したスタンカは、第3戦こそ痛打されたが、崖っぷちの第6戦はジーン・バッキーとのアメリカ人対決を完封で制した。これで3勝3敗。
ここからはジーン夫人と池井優の共著『熱投スタンカを憶えてますか』(中央公論社)から紹介しよう。
〈ジョーは第一戦、第六戦と二試合シャットアウトを演じ、あれだけ素晴しい仕事をやってのけたのだから、もう登板の機会はないものだと私は信じていた。したがって、藤江さん(注・通訳)が電話で第七戦も先発してくれるかと頼んできた時の驚きといったらない。しかも、ジョーが引き受けると返事をしたのに、またびっくりした。長年ジョーを見てきているが、完投した翌日の朝は、右腕をあげるのも辛いことをよく知っていたからだ。〉
スタンカは、あの一球について「あれは僕のミス。完全にストライクと思って腰を浮かせて球審の死角になったからだ」と語った野村捕手に感銘を受けた。そんな野村とバッテリーを組める幸せをかみしめた。そうした経験を重ね、スタンカは南海を愛し、意気に感じる気持ちをふくらませた。
再び村山と投げ合った第7戦。連投のスタンカは被安打5、奪三振8で阪神打線を零封した。3度の完封勝利で南海を5年ぶり2度目の日本一に導いたスタンカはMVPに輝いた。
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