「100歳以上生きる人」の共通点とは? 500人以上の百寿者と面談した専門家が明かす 「老害という言葉を危惧している」
人生100年時代と言われて久しいが、ヨボヨボになってまで生きたくはない。とはいえ、医療は進歩を続け、そう簡単に死ぬこともできない。果たして自分はどんな100歳になるのか……。そんな人に向け、老年心理学の専門家が「百寿者の世界」を解説する。【権藤恭之/大阪大学大学院教授】
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ピンピンコロリ。
すでに「高齢社会」ではなく「超高齢社会」になっている日本では、病気などに苦しむことなく、元気に長生きしてコロリと死ぬのが理想として扱われています。80歳を超えてもゴルフを続けられている、90歳になってから新たに水泳を習い始めた、100歳で亡くなる直前まで現役として仕事を続けていた――。たしかに、いつまでもピンピンなのは理想的な人生といえるでしょう。私自身も、できることならいつまでも元気でいたいと憧れ、「あれを食べたら体にいい」「これをすると健康寿命が延ばせる」といった記事があれば興味を引かれます。
しかし、人生100年時代における長い老後の姿は、ピンピンコロリだけではないはずです。現に亡くなるまでピンピンしている人はレアケースです。100歳で自立している人の割合は2割を切り、身体的側面および認知的側面、さらに視聴覚において全く障害の無い人は2%しかいません。
だからといって悲観する必要はありません。100年以上生きた人、つまり百寿者に、私はこれまで数多くお会いしてきました。その上で、ピンピンコロリ型人生ではなくても幸福な老後は送れると確信しています。それは――。
〈大阪大学大学院教授で老年心理学を専門とする権藤恭之氏は、「高齢者の幸福感」をテーマとし、約25年にわたって百寿者たちの調査・研究を続けてきた。これまでに実際に会い、話を聞いた百寿者の数はゆうに500人を超える。
そんな権藤氏が、老後の「もう一つのあり方」を提示する。〉
「人生110年時代」に突入しつつある日本
まずは「日本の老後」の現状について説明したいと思います。
84.3歳。日本人の平均寿命は世界一です。また、敬老の日を控えた9月15日の時点における百寿者は9万5119人で、54年連続で過去最多を更新しています。さらに、日本、デンマーク、フランス、スウェーデン、スイスの5カ国を比較した調査では、80歳の人が100歳になる確率は日本がトップで、福祉が手厚い北欧の国であるデンマークの2.5倍にも達します。
これらの数字を見れば、日本は間違いなく長生きしやすい国といえます。2007年生まれの子どもの約半数は107歳より長く生きるとも推計され、日本は「人生110年時代」に突入しつつあるのです。
日本の“ねじれ”
他方で、日本、アメリカ、中国、フィンランド、韓国、ドイツの6カ国の20~70代を対象にした調査では、「100歳まで生きたいと思いますか?」という質問に対して、日本で「とてもそう思う」と答えた人は8.1%と6カ国中最下位。5位だったドイツの15.3%の約半分、トップのアメリカの31.2%と比べると4分の1程度です。
長生きできる国なのに、長生きしたくない。100歳になる可能性が高いのに、100歳になりたくない。
このような“ねじれ”が生じているのが、日本の現状です。なぜ、こうした現象が起きているのでしょうか。なお、私たちの調査では、30~75歳の人に「何歳まで生きたいですか」と尋ねたところ、平均寿命以下の「80歳」と答えた人が最多でした。
日本人の寿命は延び続けています。そして高齢者の数が増えると、その分、必然的にピンピンコロリではない人の数も増加します。つまり、自立できていて元気というわけではなく、寝たきりのような状態の高齢者の姿を目にする機会が以前に比べて多くなった。そういう人たちばかりに目がいき、言葉は悪いですが、「ああなってまで生きたくはない」と感じる人が増えている。超高齢社会の日本はいま、このようなフェーズに入っているからこそ、「100歳になりたくない」という人の割合が高くなっているのだと私は思います。
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