トランプ氏やその支持者は「反知性主義」なのか? 多くの日本人が誤解していること

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 圧勝とも言えるトランプ氏の大統領返り咲きの要因については、さまざまな分析がなされている。曰く、経済を重視する人が多かったから、ハリス氏が途中で登場したから等々。支持層の学歴を比較した分析も見られ、トランプ氏の支持層のほうが、大卒が少ないといったデータが、現地のメディアでは伝えられたという。

 言うまでもなく、大学卒か否か、あるいは学歴が高いか低いかは、その人の頭の良さを決める要因ではないし、ましてや人としての価値を決めるものではない。しかしながら、上のデータを取り上げる人の中には、「トランプを支持している人はレベルが低い」という考えが透けて見える向きもいるため、「学歴差別だ」といった批判の声もX上では上がっている。

 こうした論争の際によく使われるキーワードが「反知性主義」だ。

「トランプを信じているような反知性主義者が増えて~」といった具合に用いられることが多い。かつて日本では故・安倍晋三首相を批判する人々、いわゆる「反アベ」の論者たちが好んで用いていた時期もあった。

 この場合「反知性主義」は、「知性や教養を軽視する姿勢」という意味で用いられているのだが、実はその用法、本来の意味とはかなり異なるという。そのものずばりの『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』という著書がある森本あんり氏(東京女子大学学長)の解説を聞いてみよう(2015年3月15日配信記事をもとに再構成しました)。

「反知性主義」ってなに?

 森本教授は次のように解説する。

「反知性主義(anti-intellectualism)は、もともとアメリカで生まれた言葉です」

「冷戦初期のアメリカでは、多くの知識人がさしたる根拠もなく“共産主義者”とレッテルを貼られ、大衆から攻撃されました。この知識人への理不尽な攻撃を、リチャード・ホフスタッターという学者が“反知性主義”という概念で分析したのです」

「日本でも、福島原発事故や歴史認識問題をきっかけに、盛んに反知性主義という言葉が使われるようになりました。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、反知性主義を『実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度』と定義しています」

「最近ネットでは、自分とは異なる考え方をする人に対して“反知性主義”という言葉を使う傾向が見られます。要するに、“お前はバカだ”と言う代わりに“反知性主義”というレッテルを貼るわけです」

 しかし、「反知性主義を単なる“バカ”という意味で使うのは誤りだ」と森本教授は指摘する。

「反知性主義=バカ」ではない

 では、森本教授は「反知性主義」をどう捉えているのか。

「本来の反知性主義とは、知性そのものへの反対ではなく、知性が権力と癒着して人々の生活に余計な口出しをすることへの反対です」

「たとえば、学者が原子力の研究をすること自体には反対しないが、特定の学者が行政や業界と癒着して国の原発政策推進や世論誘導に加担するようになったら、それには強く反発する」

「つまり反知性主義には“反権威主義”という重要な側面があるのです。だから、アメリカにはハーバード大など名門大学出身の“反知性主義者”もたくさんいます」

「権力の暴走を許さない健全な社会を維持していくために、日本にも“知性的な反知性主義者”が増えて欲しい。そのような願いを込めて『反知性主義』という本を書きました」

 どうやら「反知性主義」という言葉には、われわれが思いもよらないポジティブな意味があるようだ。安易に悪口として「反知性主義」を使うと、知性ある人に陰で笑われることもありえるのだ。

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