「いざという時、子どもは強い」「親が思うよりずっと偉い」――中川李枝子さんが17年間、保育士をして知ったこと
「ぐりとぐら」シリーズ、『いやいやえん』、『そらいろのたね』。世代を超えて愛され続ける絵本の数々を、中川李枝子さんは保育士として働くかたわらつづりはじめたことはあまり知られていない。
現在の駒沢オリンピック公園(東京都世田谷区)にあったみどり保育園に、東京都立高等保母学院を卒業してすぐ勤めた。
中川さんは実際に、著書『子どもはみんな問題児。』でこう明かしている。
「いまはっきり言えるのは、あの保育園に勤めなかったら、私は『いやいやえん』を書かなかったということです。『ぐりとぐら』シリーズも、『ももいろのきりん』も生まれなかったでしょう」
そのみどり保育園で中川さんを待っていたのは、近所から通って来る4歳、5歳児。
「新米の私は毎朝、覚悟を決めて家を出なければならないほど、たくましい子どもたちでした」
後年、育児の悩みを抱えた母親たちに、中川さんが伝えていたのは「いざという時、子どもは強い」ということだった。中川さんが見てきた子どもたちの本質とは、どんなものだったか。同書から引用する。
(デイリー新潮 2016年07月08日配信の記事をもとに加筆・修正しました。)
名作絵本シリーズ「ぐりとぐら」の作者で17年間保育士を務めた中川李枝子さんは、ある子どもが火事で焼け出されてしまった事件をひも解きながら、こう語る。(以下、10万部突破のベストセラー『子どもはみんな問題児。』より引用)
「みどり保育園に来ていた子の隣家が火事になり、家族を一晩保育園で預かったことがありました。弟と妹もいっしょでした。
すると日頃おっとりした、ちょっと頼りのないお兄ちゃんが、いつもと全然違うのです。『お兄ちゃんの保育園だから大丈夫だよ』とおびえる幼い弟たちをなだめ、安心させ、しっかり守って園長先生を驚かせました。
私たちはなんてえらい! と、その子をすっかり見直しました。
困難なこと、いつもと違うことが生じたときは、子どもにきちんと説明するといいと思います。
小さい子には分からないと、きめないで。
堂々と話して、『よろしくね』と言ってご覧なさい。
必ず分かってくれます。示す場がないだけで、子どもは思っているよりずっと偉いのです。そして役に立ちたくてたまらないのです。上手に付き合わなくちゃ」
確かに、いくらドタバタした日常を過ごしていても、いつもの家庭内では子どもが真価を発揮する機会はそれほどないといえるだろう。
そうした時にはアドバイス通り、堂々と事情を話して「よろしくね」と言うことを心がけたい。
それにしてもなぜ、中川さんはここまで「子どもは親が思うよりずっと偉い」と言い切れるのだろうか。
「子どもはあなたよりちょっと賢い。
だって誰でも、自分にはないいいところを持つ人を結婚相手に選ぶでしょう。だとすれば子どもにはお母さんのいいところと、お父さんのいいところが入っているのですから」
保育士として数多くの子どもを預かり、作家として日本中の子どもたちを楽しませてきた人の言葉は、深くて優しい。
そして揺れる親の心も、すっと晴れやかにしてくれる。