昔住んだ街も元恋人も「記憶の中」なら理想通り わざわざ会ったり訪れたりしなくてもいいのかも(古市憲寿)

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 子どもの頃、東京の亀戸のあたりに住んでいた時期がある。祖父母と共に浅草の松屋デパートや亀戸天神に行ったり、福神橋のバス停から都営バス「門33」路線に乗って豊海水産埠頭を目指すというのが、休日の過ごし方だった。

 この前、久しぶりに子どもの頃に住んでいた場所を訪れた。自分でも驚いた。懐かしくも何ともなかったのだ。この30年で街並みが変わってしまったということもあるだろう。だがそれ以上に僕自身が何も覚えていないのだ。

 駅までの道も、通っていた幼稚園も、川沿いの景色も、まるで初めて訪れる場所のようだった。...

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