「世界に類を見ない投手になりたい」 山本由伸が語っていた大いなる野心

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世界に類を見ないピッチャーになりたい――

 2017年4月、山本は初めて矢田の下を訪れた。高校時代から最速151km/hを投げてきた代償で、右肘の張りに悩まされた。そうした話を聞いた知人が、柔道整復師の矢田を紹介してくれた。過去4回の記事で記したように、それが「日本のエース」へ駆け上がるきっかけになった。

 当時18歳、プロでまだ1軍未登板の右腕投手は、その頃からはるかな高みを見据えていたと矢田は証言する。

「もちろん今とはレベルが違いましたけど、見ているところには『世界で一番のピッチャー』がありました。だから、そういう基準で話が進んでいきましたよね。今の活躍にそれほど喜ばないのもそんな理由なんです。日本一やメジャーというのは、目指す過程にあるものなので」

 世界に類を見ないピッチャーになりたい――。

 山本が当時から秘める野心だ。

 矢田から学んだBCエクササイズの神髄をどうすればピッチングに生かせるかと追求し、独特な投球フォームにたどり着いた。そこから投じられるのは、周囲とは明らかに異質なボールだ。

 例えば、最速151km/hのフォーク。打者にはストレートのように見えて、手元で突如落ちるから対応できない。

「もともと矢田先生と『150km/hのフォークを投げよう』と言っていて、投げられるようになったのが今のフォークです」

 2022年4月2日の日本ハム戦で2回2死、6番・レナート・ヌニエスに151km/hのフォークでバットに空を切らせると、相手のBIGBOSSこと新庄剛志監督に「151km/hのフォーク、打てるかー。初めて見た」と言わしめた。

 なぜ山本は、誰も投げられないような球を操れるのか。

「150km/hのフォークを目指したというより、ちゃんと力を伝える方向が合った結果として150km/hが出て、ちゃんと落差もある程度あってというのが狙いです。150km/hのフォークが投げられるようになったのは、正しく投げたからだと思います」

 もう一つの武器、カットボールも独特だ。球速140km/h台後半でストレートのように迫っていき、打者の手元で斬りつけるように曲がる。

 そうした軌道を描くのは、「あまり手で曲げてない」という点にヒントがある。

「『どうやって投げているの?』とよく聞かれるんですけど、『ここをこうして』と教えてあげたとしても、その人の体ではできなくて。自分の感覚だし、自分がここまでやってきた動作の練習があります。基本的な動作に見えて、その積み重ねが本当に大事で、それで少しいいカットを投げられるようになったという感じです」

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