“山本由伸流”「常識外れの投球」はどのようにして生まれたのか

スポーツ 野球

  • ブックマーク

前年までの投げ方をアップデート

 前回の記事で山本の「なぜか筋肉がついている」というコメントともに、年々スーツのサイズが大きくなっているという話を紹介した。現在の野球界で主流のウエイトトレーニングには取り組まない反面、山本が行っているエクササイズには「レジスタンストレーニング」という効果もあり、体に「抵抗」をかけることで体の中に筋肉がついていくのだ。

 そうして力強さを増した体をうまく操り、球威のあるボールをコントロール良く投げ込んでいく。山本は投げ方について矢田から言われたことは「ほぼない」と話すが、BCエクササイズを踏まえ、どのように自身の体を扱えば投げたいボールに近づいていけるかと試行錯誤し、現在の投げ方にたどり着いた。

「体を整えて、正しい方向に力を伝えるということだと思います」

 山本がそう表現する一方、矢田は理想的な投げ方についてこう解説する。

〈投球の場合、ボールが力を受けて手から離れていこうとする際の力の伝わり方は、体幹の深層を中心にして、接地した前足からボールまでが、一本の青竹を強い力でしならせた状態で蓄えられたエネルギーが一気に解き放たれるように、大きな力がボールに伝わることが望ましい〉

 2023年の春季キャンプでは、山本も前年までから投げ方をアップデートさせようとしている。それを部分的に切り取れば、左足をクイックのように速く踏み出して体重移動をうまくしようとしているが、上記の解説を踏まえると、全体的な意図が感じられるかもしれない。

 日本球界の伝統や慣習と照らし合わせたとき、山本は“常識”から外れた投手だ。それだけに、球団首脳陣の考え方とはなかなか相容れないところも少なくなかった。

「2年目にフォームが変わって、2月なんてすごく周りに言われました。筒香さんはやっていますけど、たぶんプロ野球のピッチャーがやったことがあるトレーニングではないので。例えば、やり投げのトレーニングもすごく反対されましたし。2020年のシーズンにケガしたときも、『ウエイトトレーニングが足りていないからだ』と言われました」

 2023年の春季キャンプ序盤で、高橋が中日で直面したのは同様の現象といえるだろう。中日の首脳陣が取り組みの意図をどこまで把握しているかは定かでないが、高橋が目的を持って行っているのは間違いない。

 なぜ、山本はあのような投げ方をしているのか。そして、高橋は何を学びに行ったのか――。

 二人の才能豊かな日本代表選手の取り組みを“例外”として片付けるのは、あまりにももったいない。「奥にある本当の理由」を考えることで、初めて見えてくる真実もあるからだ。(敬称略)

 ***

 この頃、すでに山本投手の頭の中にはメジャー行きがあった。彼は何を目指していたのか。本人の言葉をもとに次回は見てみよう。

中島大輔:1979年埼玉県生まれ。上智大学卒。スポーツ・ノンフィクション作家。著書『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に『野球消滅』『プロ野球 FA宣言の闇』など。プロからアマチュアまで野球界を広く取材している。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。