“山本由伸流”「常識外れの投球」はどのようにして生まれたのか
オリックス時代に見いだしたフォーム、トレーニング方法いずれも旧来の常識からはみ出したものだったが、山本由伸投手(現・ドジャース)は着実に成長し、成果を出していった(第3回記事「ウエイトトレーニングを一切しない」山本由伸は、なぜ大投手になれたのか? 才能を開花させた“常識外れ”の練習法とは)。
そうなると当然、彼に憧れる投手も現れる。
2023年の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、こんなことがあった。
20歳の最年少で選出された高橋宏斗投手(中日)がキャンプ序盤でブルペンに入ると、自主トレを一緒に行った山本由伸(オリックス)と同じような投げ方になっていて、立浪和義監督に苦言を呈されたというのだ。
山本投手自身は、自身に「憧れ」を持つ投手たちについてどう考えているのか。『山本由伸 常識を変える投球術』の著者の、スポーツライター・中島大輔氏の記事から見てみよう。(デイリー新潮2023年2月11日配信の記事を再構成しました。年齢などは当時のものです)〈5回連載の第4回〉【中島大輔/スポーツライター】
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高橋に限らず、全国に今、山本の投球フォームを参考にする選手が多くいる。少年少女が憧れてマネする場合や、高校球児が向上心から取り入れることもある。履正社高校から2020年ドラフト6位で楽天に指名された内星龍や、富島高校から2022年ドラフト5位でオリックスに入った日高暖己のように劇的に良くなった例がある一方、故障に至ったケースもあると聞く。全身をうまく使いこなせないと、山本の投げ方は肘に負担がかかりかねないからだ。
では、マネされる側の山本はどう考えているのか。2022年の春季キャンプ前に聞くと、こう答えた。
「僕も高校生のとき、人のマネをして良くなったこともあります。もちろん、マネをするのはすごくいいことだと思います。でも、例えば自分がマネしている選手はなんでこういう足の上げ方をしているのかとか、もっと奥に本当の理由があると思います。そこを理解できたときに、本当に良くなるかなと思いますね」
高橋は2022年12月から約2カ月間、山本と一緒に自主トレを行い、トレーニングや食事まで共にした。おそらく前回の記事で紹介したBCエクササイズや、やり投げ、遠投などを中心に取り組んだのだろう。結果、春季キャンプ序盤では山本と似た投げ方に至り、中日の立浪監督から苦言を呈された。
直後に高橋が残したコメントから推測すると、山本が言う「本当の理由」にたどり着いているように感じる。
「どっち(のフォーム)で投げるというより、感覚は似ている。準備は順調で、確実に球は良くなっている」(2023年2月4日の日刊スポーツ電子版「【中日】高橋宏斗が最善へ試行錯誤、フォーム改造に懸念示した立浪監督の前で昨季までの姿も披露」より)
投球フォームは、あくまで“形”に過ぎない。自身の体をどのように使って力を生み出したいかという発想があり、それを体現した動作が投球フォームとして表れる。ゆえに第三者が「肘を上げろ」などと一部を切り取って介入すると、全体のバランスを崩しかねない。投球フォームは英語で「メカニクス」と言われるが、その表現のほうが行為のイメージとして近いように感じる(メカニクスは「構造」などという意味)。
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