“新人”山本由伸のフォームチェンジに立ち会い「おお」と思わず口にした日本人大打者

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肘が1試合でパンパンに

 しかし、山本本人によると事情は異なる。出力が高過ぎるあまり、投球時のストレスに右肘が耐えられなかったのだ。

「1軍で投げ始めたときに、肘が1試合でパンパンになっていました。次の登板までに中10日もらっていたんですけど、それでもギリギリ間に合わなくて。でも、投げたいから我慢して投げていたのもありました」

 高校時代から、たびたび肘が痛くなるのが悩みだった。病院や整骨院を訪ね歩いても、原因を突き止めることができない。

「先生たちから『インナーをもっと鍛えたほうがいい』『ストレッチをしてみてはどうか』などとアドバイスをもらったことはたくさんあったけど、僕的には全然納得していなかったというか、ピンとくる答えはもらえていなかったんです」

 プロに入っても、右肘の悩みは一向に改善されない。そんな日々を過ごす中で、山本には感じていることがあった。

 今の投球フォームでは、いつか限界が来ると――。

 プロ入り1年目までの山本は、いわゆるオーソドックスな右腕投手だった。ノーワインドアップから左足を上げて、軸足に乗って体重移動をしながら上半身の回転運動の中で腕を振っていく。右腕を振る最中、肘は曲げてから伸ばすようにしならせてリリース時の力に変えた。

 それが現在のように、右腕を後ろに大きく引き伸ばして右肘をほぼ曲げずに投げるようになったきっかけは、入団1年目の4月にさかのぼる。「キネティックフォーラム」を主宰する矢田修と出会ったことだ。

“分かりやすく”ほど大きな落とし穴はない

 柔道整体師の資格を持つ矢田は、「体知」を重視している。自分の身体の声に耳を傾けよう、という考え方だ。

 普段、自身の接骨院で患者を治療するのと同じように、矢田はトレーナーとしてアスリートを指導する際にもまずは体を触る。動作の特徴は体に表れており、触って感じたイメージについて会話をしながら擦り合わせていくのだ。そして将来の理想を聞き、どうやって目指すかを一緒に探っていく。

 まだプロで未登板だった山本は、矢田を訪れた当時から「世界」を見据えていた。同時に抱えていた問題が、投球の出力に耐え切れずに右肘が張ることだった。

 山本の過去、現在、未来をつなぐ、と矢田は言った。

「寝る間を惜しんでトレーニングをしたとしても、今の投げ方の延長線ではあなたの思い描く理想には行かれへんよ。そこに行くためにはフルモデルチェンジが必要ですよ」

 初対面の者に対し、いささか厳しい言葉に聞こえる。プロ野球人生を歩み始めたばかりとはいえ、己の腕で道を切り開いてきた男だ。

 逆に言えば、矢田がそうした表現を選んだのには理由があった。

「野球に限らず指導するとなったら、分かりやすく説明するじゃないですか。分かりやすくないと、相手に伝わらないですから。でも、“分かりやすく”ほど大きな落とし穴はないんです。例えば誤解を招くとか、違う解釈をされることがありますよね。言葉尻だけを捉えると、指導者の意図とは違う形になったとか。スポーツの現場ではそういうことが多いと思います」

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