「旧ソ連の戦車」がロシア兵に襲いかかる日は来るか…韓国が「旧ソ兵器」を大量に保有する深い理由

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 毎日新聞は1994年9月、「ロシア、韓国へ兵器で借款償還 新鋭戦闘機は含まれず──暫定合意」との記事を朝刊に掲載した。韓国は1990年にソ連と国交を樹立し、その際に30億ドルの借款供与に合意した。要するに金を貸すわけだが、91年12月にソ連は崩壊。国内は混乱が相次ぎ、韓国が14億7000万ドルを供与したところでストップしてしまう。

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 30億ドル全額を貸す前に止められたことは不幸中の幸いだったとはいえ、ロシアが借金を返すあては全くない。そのため94年8月からロシアと韓国はモスクワで実務会談を行い、返済方法について話し合った。

 出た結論は、金がないから原物で払う──。利子を含めた約4億ドルのうち、半分を鉄鋼、アルミニウム、ニッケルなどの原資材。5%を山林火災消火用のヘリコプター8機、そして残りの45%を軍事物資で返済することで合意した。軍事ジャーナリストが言う。

「この結果、旧ソ連製の戦車であるT-62とT-72が約20両、T-80は35両、BMP3歩兵戦闘車70両がロシアから韓国に運ばれたのです。実はロシアはミグ戦闘機も借金の返済に充てたいとの意向を伝えたのですが、さすがに韓国は『もらっても使い道がない』と断ったというエピソードが残っています」

 T-62は1960年代に開発された、旧ソ連の主力戦車。T-72は1971年に開発された戦車だが、現在でも東欧、中東、中南米、アフリカなどの各国で主力戦車として使われており、ロシア軍もウクライナ戦線で使用している。

「何より特筆すべきはT-80です。1975年から生産が開始されたもので、今すぐ実戦に投入ができる性能を持っています。その能力は折り紙付きで、当初はソ連軍限定の戦車として生産され、同盟国にも輸出はしていませんでした。ソ連崩壊後、外貨獲得のため各国に輸出をしています。そして兵器を輸出する国家はどこでも、“モンキーモデル”と言って、意図的に性能を低下させたものを相手国に渡すのが一般的です。もし輸出した国と戦争が起きても勝てるようにするためですが、ロシアが借金を返済するために韓国へ渡したT-80は正真正銘の国内モデルなので、性能はオリジナルのままなのです」(同・軍事ジャーナリスト)

ウクライナにはメリットだらけ

 韓国がK-1やK-2をウクライナに供与するのであれば、ウクライナの戦車兵を呼んで国内で訓練させる必要がある。ところがT-62、T-72、T-80ならウクライナに運ぶだけでいい。

「K-1やK-2を供与した場合は、メンテナンスに必要な整備兵や部品もウクライナに運ぶ必要もあります。ところが旧ソ連の兵器であれば、ウクライナだけでなくポーランドなどにも交換部品などが準備されています。韓国は戦車を渡すだけでよく、後の心配は何もないので、これもメリットだと言えるでしょう。いずれにしてもウクライナ軍にとって韓国が保有する旧ソ連製の戦車は、まさに喉から手が出るほど欲しいものだと言えます」(同・軍事ジャーナリスト)

 陸上自衛隊の定義では、戦車が4両で1個小隊、12両で1個中隊となる。つまり韓国からT-80を送ると、3個中隊が誕生するというわけだ。

 もし実現すれば、非常に皮肉なことになるだろう。ロシアが借金のカタとして韓国に渡した戦車が、巡り巡って自分たちの攻撃に使われるかもしれないのだ。

 さらに北朝鮮は兵士をロシアに派遣しており、ウクライナ侵略戦争の最前線に送られる可能性も取り沙汰されている。ひょっとすると、“韓国が送った旧ソ連製の戦車”と北朝鮮軍が対峙することも考えられる。

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