「原作改変」の懸念が吹き飛ぶ“再現力”! ドラマ「ゴールデンカムイ」は激推しできる実写化作品

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 アイヌの人々が密かにためこんだ莫大な量の金塊を巡って、元軍人や軍人、脱獄囚、そして幕末の志士らが血で血を洗う争奪戦を繰り広げる。超大作「ゴールデンカムイ」はまず映画化、その続きをWOWOWでドラマ化。原作を夢中でむさぼり読んで思ったことは、映像化で原作のエッジが削られる懸念だった。

 自然と共に生きるアイヌ民族の文化の描写、特に神聖な狩猟などの場面はロケ必須。ちゃんと再現してほしいし、野蛮で残虐な時代背景もお行儀よく忌避していたら世界観が伝わらないだろうし、と。杞憂だった。予算も時間もエッジも極力削らない方向でひと安心。頼んだよ、WOWOW。

 さらに「金カム」の魅力は強烈なキャラクターで、タガの外れた人間が豊富な点だ。日露戦争の死闘を生き延びた元軍人も、金塊の在処を示す暗号を刺青で彫られた脱獄囚たちも、大義と野望を抱く人々も、とにかく全員血の気が多く、その割に憎めない滑稽味もあるし、異様な生命力と躍動感がある。ゆえにキャスティングも懸念の一つだった。

 主人公・不死身の杉元を演じるのは、漫画原作実写版俳優の宿命を背負い続ける山崎賢人。杉元の相棒で、アイヌ民族の誇りと伝承と未来を託された少女・アシリパを演じるのは山田杏奈。脱獄囚の一人でコメディーリリーフの白石由竹を演じるのは矢本悠馬。一瞬「若過ぎる?」「え、大人?」「小兵?」と思ったものの、三人とも金カムの世界観にしっくりハマっていく。再現度は高く、懸念も吹き飛ぶ。

 また、鶴見中尉を玉木宏に、尾形百之助を眞栄田郷敦に託したあたりも、美しさと狂気に特化した納得のいくキャスティングだった。メインキャストに限らず、例えば二階堂役の柳俊太郎も小物感ならではの味わいが。あの素晴らしい世界観を全員でつくり上げようという役者陣の熱量を感じた。

 ドラマ版は「北海道刺青囚人争奪編」と銘打っただけあり、キャラ愛のあふれる展開に。脱獄囚の罪の背景、抱える嗜虐性や変態性もきっちり描いた。特に第2話、辺見和雄役の萩原聖人の茶目っ気がおかしくてね。ここまで丁寧に描くなら楽しみしかない。脱獄囚の他にも奇人変人がわんさか出てくるはずだ。今後、任侠映画オマージュの遊び心にも期待している。

 個人的には「金カム」のやや強めな男色味も見どころの一つと思っている。命を賭すだけの心酔や忠誠心を恋愛感情に近い形で表現した原作の味わいを、きっと再現してくれることだろう。頼んだよ、WOWOW。

 で、原作を読んでいない人にとってはどうか。日露戦争後の政府に対する不満や不信感を背景にした一種の歴史モノであり、北海道の産業の成り立ちや、アイヌの言葉・習慣・文化を詳しく学べる教養作品でもあり、コメディーとアクションを適宜味わえる冒険活劇でもある。割とフックは多め、万人ウケすると思うのよね。

 実写版でもぜひ樺太編&函館・五稜郭編までどうにかしてたどり着いてほしいので、ささやかにしたたかに激推ししておこう。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年11月7日号掲載

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