貯金42「ソフトバンク」は貯金2「DeNA」になぜ敗れたのか 炎上「小久保監督」とモチベーター「三浦監督」の“違い”とは

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1989年の再現

 この第3戦の前にもう一つ“事件”が起きていた。ソフトバンク・村上隆行打撃コーチがDeNAの東対策について報道陣の取材に「(オリックスの)宮城(大弥)の方が断然いい」ときっぱり。これを知ったDeNAナインの闘争心に火がついたのはいうまでもない。

 村上コーチは1989年の日本シリーズ(巨人-近鉄)に選手として出場。この時は近鉄が大方の予想を覆す形で開幕から3連勝。そこで第3戦に先発した加藤哲郎投手が「打たれそうな気がしなかった。巨人に迫力がなかった」とコメント。記者が「(当時パリーグ最下位だった)ロッテよりも?」という問いに「そうですね」と発言。これで巨人ナインに火がついて一気に4連勝した。野球ファンの間ではあまりに有名な出来事であるが、その怖さを知っているはずのコーチによって、35年ぶりとなる日本シリーズでの“舌禍事件”が再現された形になった。加藤自身も、自らのXで今回の発言について触れ、「村上、いらん事言わんでええねん 記者もいらん事聞かんでええねん」とポストしているほどだ。

「小久保の失敗」

 小久保監督にとっては8年前の悪夢の再現となった。2015年、日本代表監督として「プレミア12」の指揮をとった。準決勝(対韓国)では無失点だった大谷翔平に7回での降板を指示。この采配が完全に裏目に出て逆転負けを喫した。プロ野球の日本代表監督で初めて「更迭論」が噴出したのもこの試合だった。「あるスポーツ紙がこの試合を翌日の1面で『小久保の失敗』という大見出しで報じました。小久保監督はこの紙面を今も自宅の書斎に飾っている。そんな監督は他にはいないと思います」(前出・夕刊紙記者)。が、プロは結果が全て。小久保監督は「短期決戦」では勝てない指揮官という烙印を日本シリーズでも打ち破ることができなかった

 一方の三浦監督は「モチベーター」。「怒らない、威張らない、腐らない」が信条だ。就任4年目の今年が「チームスタッフと一番、いろんな話をした」とも。今シリーズは2連敗で最悪のスタートを切った。「さすがに緊急ミーティングを開こうと思った」そうだが、牧主将から「選手だけでやりたい」と打診があった。「三浦監督は選手側からミーティングをやりたいと言ったことをめちゃくちゃ喜んでいました。優勝した後に俺はますますこのチームが好きになった!と叫んでいました」(DeNA担当記者)。スター選手だけではなく、チーム全体で奪い取った優勝だ。自らが現役時代の1998年以来の26年ぶりの日本一に「心の底から嬉しい」と笑った。

待ちに待った監督

 ソフトバンクは12球団ではただ一つ4軍まで編成して莫大な資金力を軸にチーム編成を進めている。この3年間優勝を逃し、王貞治会長が“指名”する形で小久保監督が誕生した。世界の王が「待ちに待った監督だ」とも表現した。日本球界では2人の師弟関係の強さは誰もが知っている。それでも4年ぶりの日本シリーズで頂点に立つことはできなかった。小久保監督は今季最後のミーティングで「勝たせられなくて申し訳ない」と選手全員に謝罪をした。負けに不思議の負けはない――。小久保監督にとって、野球界でよく知られたこの格言を改めて思い起こす結果となったことだろう。

小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター

デイリー新潮編集部

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