「こんな指があるから悪い」…「旧石器発掘捏造」“ゴッドハンド”と呼ばれた男は、なぜ自らの指をナタで斬り落としたのか
指も自ら切り落とし
四半世紀にわたって繰り返してきたという捏造については、03年に考古学者から偽計業務妨害容疑で告発されたものの、不起訴処分となっている。が、彼が日本の歴史にもたらした影響は計り知れない。
「藤村氏が捏造を暴かれた宮城県の上高森遺跡からは、60万~70万年前の石器が相次いで発見されていました」
とは、発覚前から疑義を呈していた共立女子大非常勤講師の竹岡俊樹氏。すなわち、藤村氏の捏造発覚によって70万年前から日本列島に人類が住んでいたとの定説は否定され、前期(約13万年以上前)および中期旧石器時代(約13万~3万6000年前)に関する研究は、ことごとく無となってしまったというのだ。
「それまで高校の教科書などには、上高森遺跡での“発見”を受け『生活の痕跡は原人の時代までさかのぼる』などと書かれていましたが、事件後にはこうした記述は削除されてしまいました」(同)
現に、9社合計26冊出されていた日本史の教科書から、藤村氏の関わった遺跡の記述は消滅。彼が捏造に手を染める以前は、群馬県の岩宿で発見された約3万年前とされる石器が、日本最古であった。よって、日本の歴史は「70万年前」から「3万年前」へと大きく後退し、その余波は広く中高生や受験生にも及んでしまったのである。
先の渡辺社長が言う。
「03年にあらためて藤村氏を取材すると『人格が入れ替わる』『自分の分身が多い時には20人いた』などと言う。ですが、こうした弁明からは、嘘をついているというより無理やり妄想を信じ込んでしまったような感じがしました。彼はまた『“指を切れ”との幻聴が聞こえた』とかで、実際に右手の指を2本、自ら鉈(なた)で切り落としていたのです」
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この時の取材では藤村氏に話を聞くことは出来なかったが、そこから遡る8年前、2010年に「週刊新潮」は藤村氏にインタビューしている。その最中、藤村氏はポケットに入れていた右手を出し、欠損した中指と人差し指を記者に見せながら、以下のように語っている。
「これは、僕が自分で斬り落としました。7年ほど前、当時の自宅の裏山をフラフラ歩いているうち、突然、“こんな指があるから悪い。2度と悪さができないようにしないと”と思い込んだのだと思う。木の根に右手の2本の指を置いて、左手に持ったナタで一気に叩き斬った」
「物凄く痛くて、血も大量に出ました。タオルや手ぬぐいで自分で血止めをし、しばらくして医者に行きましたが、“血が止まらなければ死んでいたかもしれない”と言われた。その時の僕は、死んでも構わない、と思っていたのかもしれません。右手を見るとあの時の血と痛みを思い出すので、いつもポケットに入れているんです」
一方で、事件の核心については「何も覚えていない」と繰り返すのみだった。
藤村氏は現在、74歳になっている。自らの過去を今、どのように振り返っているのだろうか。