「全米が大谷を絶賛」報道への違和感…「自由の国だが、差別と無縁ではない」アメリカの実態
ハイスクール時代の安打数を足せ
このようなコメンテーターが常に登場し、日本人選手は評価できない、とダダをこねるのだ。MLB最高の4256安打を放ったピート・ローズはイチローが日米通算でローズの記録を抜いた(最終的には4367安打)ことについて「オレのハイスクール時代の安打数も足せ」と言った。
アメリカ人にとってはinferior(劣った)な別のリーグの成績などどうでもいいのである。だからこそMLBには「ワールドシリーズ」があるし、NBAファイナルを勝ったチームは「ワールドチャンピオン」と呼ばれる。そこに異論はない。だからこそ、日本のメディアがいちいち「日米通算」という数値を大切にする様はアメリカ人にバカにされるのである。日本のメディアがいちいち著名な選手やレジェンドに「イチローについて…」「大谷について…」などと質問するのは彼らに失礼である。
さて、野球界の状況はざっとこのようなものだが、いわずもがな、反日感情が高まったのは第二次世界大戦の時だろう。アジアの小国が近隣諸国を次々と征服し、さらにはアメリカ史上初の本土への攻撃となるハワイ・真珠湾攻撃で太平洋戦争を勃発させた。
玄関前に爆竹が
そして、1980年代。日本車があまりにも燃費や性能に優れていたため、アメリカ市場で大きな存在感を示した。デトロイトの労働者は日本車をハンマーで破壊するパフォーマンスをした。家電についても同様である。東芝やパナソニック製品はアメリカで大人気に。当時中高生だった私はアメリカに住んでいたのだが、アメリカ人は私にこう言った。
「でもな、ソニーはアメリカの会社だぜ」
ンなアホな……と思ったものの、反日感情蠢く中西部の小都市に住んでいた私は余計な軋轢を作らぬために否定も肯定もしなかった。そもそも、そんな街に私が行った理由は、こうした日米経済摩擦と無関係ではない。父親が日系自動車メーカー勤務で、その会社がアメリカのメーカーと合弁で自動車工場を作ることになり、その立ち上げに関わったからである。アメリカの企業が、当時イケイケだった日本企業の傘下に入ったかのようにその街の人は思い、その怒りを私にさえぶつけることがあった。
ある日、高校のロッカーで教科書を出そうとしたら、そこに「このJAP、オレ達がもう一発原爆を落とす前にお前がいるべき場所に帰りやがれ!」と書かれていた。このような差別的な書き込みがその後2年間放置され続けたのである。教師だって把握していただろうに、犯人捜しをするわけでもなければ、消そうともしなかった。
さらに、週末になると、私の自宅の玄関前に爆竹が投げ込まれるという嫌がらせを何度も受けた。「ここはJAPが住む家なんだぜ」という情報共有がされていたのだろう。この時「あぁ、この国の根底はここにあるんだな」ということは十分理解したし、この根底は今になっても残っている。
能天気な日本メディア
しかもこの街は、アメリカのネオナチを創設したジョージ・リンカーン・ロックウェル(1918-1967)という人物の生誕地なのである。毎年彼の誕生日には、白人至上主義を掲げるロックウェルを信奉する白人によるパレードと式典も行われた。
こんな街では、当時すでに「アメリカ人扱い」されている黒人やヒスパニックでさえ居心地の悪さを時々感じていた。ましてや日本人を含めたアジア人たるや! である。このような白人至上主義の保守的な街は全米各地に存在し、NYやLAといった大都市はさておき、地方のアメリカ人が決して日本人に好意を抱いているわけではないことは知っておいた方がいい。
さらに、黒人やヒスパニックも、自分よりも下の立場の人間を見つけたいとの気持ちは感じられた。人は誰しも差別をしたいもの。被差別民は自分が差別できる人間を見つけたいとも考える。そういった意味で、大谷をめぐる「絶賛報道」が、日本人全体の絶賛に繋がっていると思うのは現地での気のゆるみに繋がる。大谷を絶賛するスタジアムを訪れる一般人等の声は、単に大谷のファンからのものか、日本から訪れた取材陣に対するリップサービスでしかないのである。
それを嬉々として「全米が大谷に注目」とやる日本のメディアは能天気としか言いようがない。
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