有名チェーンや老舗が次々と「空き店舗」に…香港を未曽有の「閉店ラッシュ」が襲う“特殊な事情”とは

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03年以来で最悪の不況

 景気変動に対する変わり身が早い香港では、売れるのなら続々出店、売れないなら即閉店というダイナミックなビジネススタイルが基本である。必然的にテナントの出入りは日本よりも激しく、閉店のニュースは景気の瞬間風速を示すバロメーターだ。

 ただし、現在の閉店ラッシュは驚くほど長期化している。民主化デモの影響で社会が混乱し始めた19年から盛んに報じられ、続いたコロナ禍でさらに加速。今もなお、地元民が利用する個人経営店や老舗までもが次々と閉店しているのだ。その数が特に多いとみられているのは飲食店。今夏に業界団体の会長が「過去3~4カ月で毎月約300軒が閉店」と発言したことからも、すでに総数が4桁を超えていることは明白である。

 地元のニュースメディアでは「結業潮(閉店ラッシュ)」の言葉が踊り、有名繁華街の裏手では「テナント募集」の張り紙が増殖する。もともと飲食店が多い場所だが、庶民に長年愛された店まで閉店する現状について、香港経済に詳しい人物はこう解説する。

「コロナ禍を経て、香港が自由な出入境を再開したのは2022年末。政府の統計によれば、22年の飲食店の総収入は前年比6.3%減、23年は前年比26.1%増でした。そのまま復調するだろうと期待されましたが、今年前半は再び減少。昨年末から目立ち始めた閉店が、この時期にピークを迎えたとみられています。閉店が増えた最大の理由は中国経済と連動している不況ですが、その規模はSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生した03年以来で最悪といわれています」

香港に金を落とさない傾向

 飲食店が不況のあおりを受けやすいのは世界共通ながら、現在の香港には“独特の事情”もいくつか存在するようだ。その1つが「テナント家賃の高騰」である。

「香港はもともと家賃の変動が激しい場所です。現在は2015年の歴史的高値から50~80%ほど下落したものの、通常の商売を営むにはまだまだ高い。契約更新時に値上げされたタイミングで閉店を選ぶ店も多くあります。営業を続けるにしても、しわ寄せがくるのは人件費。客側にすれば、ただでさえ経済が低迷する中、人手不足で味やサービスの質を維持できない店に行く気にはなりませんよね。そのため近年は、香港での消費を避け、余裕のある層は海外、たとえば日本などで積極的に消費し、所得がそう多くない層は粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)に行く傾向が生まれました」

 粤港澳大湾区とは、香港とマカオ、香港と北で接する深セン市など広東省9自治体の総称だが、このうちの香港以外は飲食業の運営コストが低い。品質を維持しやすく、さらに交通網も整備されたことで、香港から「北上消費」するというブームにつながった。また、香港を訪れる中国内地の観光客も、深センやマカオ、珠海などに宿泊する傾向があり、香港にあまり金を落とさなくなっているという。

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