「モグモグ音も聞こえる!」18頭のコアラが暮らす動物園 “ユーカリを種から育てる”から始まった、知られざるコアラ飼育40年の歴史
鹿児島県鹿児島市にある平川動物公園は、1984年に日本で初めてコアラが来園した動物園のひとつ。今年は初来日から40年。2024年10月現在、国内最多の18頭、飼育40年の歴史では通算105頭と日本一の飼育頭数を誇る。
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平川動物公園は、ガラスで隔てられずに、コアラをウォークスルー方式で観察することができる国内唯一の動物園である。ドアが開いた瞬間からユーカリの香りを感じつつ、コアラが組木を歩く音や鳴き声、食事するそしゃく音まで聞き取れる空間だ。
コアラが来た当時は、「生きたぬいぐるみ」とも呼ばれる人気者の初来日とあって、全国で名前を募集したり、大行列となったコアラ館のために警察官が待機するなど、今では想像もできないくらいの大ブームであった。
「コアラを呼びたい」その思いから、実際にコアラが来日するまでは約9年の月日がかかっている。
その歴史を、書籍『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』より一部抜粋しお届けする。
平川動物公園のコアラ40年の歴史
コアラが日本に来るきっかけを作ったのは、1975年に発足した「コアラを鹿児島に連れてくる会」という、市民グループでの誘致活動でした。会の発足からコアラが日本に来るまで約9年。この間は、エサとなるユーカリの安定的な確保のため、1977年にオーストラリアよりいただいた、4種類のユーカリの種子を育てるところから始めました。同時に、オーストラリア政府との協議、獣医師や飼育技師の現地でのコアラ飼育研修、平川動物公園のコアラ館の建設も行う中、徐々にユーカリ畑の植栽面積も広がり、1984年2月、とうとう鹿児島のユーカリをオーストラリアのコアラたちが食べてくれたことから、同年の10月25日、ついにコアラの来日が叶いました。
そして、1986年5月16日、オーストラリアから来園したクイーンズランドコアラが、国内で初めて繁殖に成功し、公益社団法人日本動物園水族館協会の繁殖賞を受賞しました。
他にも2002年には、平川動物公園で飼育しているオス2頭を、アメリカのリバーバンクス動植物園に寄贈し、国際親善に大いに貢献した歴史もあります。
初めてコアラが日本に来て、今年で40年。オス2頭、メス4頭の飼育から始まった平川動物公園のコアラ飼育は、今年も5月、6月と立て続けにオスの子が出袋し、この40年の歴史の間に105頭の飼育を成功させました。
さらに、コアラのことをより知ってもらうために、公益社団法人日本動物園水族館協会生物多様性委員会は、コアラが初来日した10月25日を「コアラの日」に制定しました。この日にはコアラを飼育している全国七つの飼育園で、絶滅危惧種である、オーストラリアのコアラの現状や生態について啓発活動を行っていきます。
国内7園で100頭を目指す
動物園には「動物を守り、育て、増やす」、種の保存の役割があります。
そのためにも、動物園同士が協力し合い、繁殖を目的とした個体の貸し借りを行います。これを「ブリーディングローン」と言います。同じ動物園内だけで繁殖を進めると、近親交配による弊害が懸念されます。個体を他の飼育園へ移動させることにより、血統更新を図るのが、ブリーディングローンの目的です。平川動物公園では現在6頭のコアラを、ブリーディングローンとして貸し出しており、中にはたくさんの繁殖に貢献している個体もいます。
このブリーディングローンによって生まれた第1子の所有権は平川動物公園、第2子が相手側の園と、原則としての決まりはあるのですが、その時の飼育園の状況により、所有権が変わることもあります。東山動植物園から来園したインディコ(♀)・つくし(♀)も、このブリーディングローンにより貸し出したイシン(♂)の第1子と第3子になります。
国内でコアラを飼う七つの飼育園では、将来的に「100頭のコアラを飼う」という目標があります(2024年9月3日現在で53頭)。何かあったとしても、この100頭でペアリングに取り組めば、遺伝的な多様性を維持しつつ、個体数を確保できるという考えです。今まさに、その目標へ向けて、各飼育園がやれる範囲での繁殖を進めています。
そのためには、メスは可能な限り4歳までにペアリングをさせると、後の子育てがうまくいく、という基準を持っています。もちろん10歳でも子供を産みますが、2~4歳で繁殖経験がない子がいれば、平川動物公園ではその個体を優先させます。兄妹・親子での交配は問題があると言われていますが、いとこの関係であれば迷わずにペアリングさせます。ただ、各飼育園が自由に繁殖させて頭数を増やすのではなく、毎年の繁殖割り当て頭数が決められています。平川動物公園は、2023年度は4頭の割り当てがありました。4頭の子供の繁殖に成功すれば、国内の他の飼育園で何かあった際にも、繁殖が期待できる個体をブリーディングローンで貸し出すなどのフォローができるという考えからです。しかし、これはあくまでも目標であり、守らないといけないわけではありません。逆に面倒を見られる範囲で5頭、6頭と繁殖させることもあります。それは、生まれる子もいれば、亡くなってしまう子も毎年いるからです。
平川動物公園の現在の施設の大きさ、ユーカリの状況からすると20頭は確実に飼育できるキャパシティがあります。だからこそ、目一杯やれるだけの繁殖活動を行い、20頭に達してから、次にどうするかを検討したい考えです。
実は、平川動物公園では、2年前に感染症で4頭のコアラを立て続けに亡くしました。その年、飼育頭数は20頭でしたが、今現在は18頭で、まだその目標頭数に戻せていません。他にも老衰、悪性腫瘍、白血病、糖尿病など、さまざまな理由で急な死を遂げます。生まれる個体がいても亡くなる個体もいるわけで、いつ何が起こるかはわかりません。年齢が合わない、性別に偏りがある等で、繁殖ができなくなる事態が起こると、頭数の盛り返しが困難になります。であれば「種の保存」の役目を果たすため「今できることを、今したい」が、平川動物公園の考えです。
「躊躇していたらタイミングを逃す」ということが常に頭にあり、今月は発情が来ると把握しているのであれば、あとは個体の雰囲気を見て、やるかやらないかを決めるだけ。そこに迷う時間はありません。頭数がいるからこそ「今やろう!」という決断もすぐにできます。
アーチャー(♂)も「種の保存」を図るためにオーストラリアのドリームワールドとの契約のもと、2022年の夏に迎え入れました。現在5頭もの子を残してくれています。これは平川動物公園での将来の血統のためだけでなく、他の飼育園でも活躍してくれるのを願ってのことです。「2年で5頭も!」と思われるかもしれませんが、前述のとおり、いつ何が起きるかわかりません。「明日じゃなくて、今日しよう。今このタイミングでやろう」というスピード感と判断力を常に持ち、日常の作業の合間にペアリングの時間を確保できるようにしています。
※『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』より一部を抜粋、再編集。