目の前の子どもたちを喜ばせたい一心で… 「ぐりとぐら」「いやいやえん」中川李枝子さんは作家を志したわけではなかった【追悼】

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 中川李枝子さんの児童文学は、人生のどこかで必ず出会っているのではないだろうか。なかでも双子の野ねずみが活躍する絵本「ぐりとぐら」シリーズは、1963年に発表されて以来2200万部を超え、今もなお読み継がれている。

作家を志していたわけではなかった

 中川さんは作家を志していたわけではなかった。保育士として働く中で、目の前の子どもたちを喜ばせたい、一緒に楽しみたいとの一心から作品は生まれた。

 野ねずみの「ぐりとぐら」は「このよで いちばん すきなのは おりょうりすること たべること」。体より大きな卵を見つけてカステラを作り、森の仲間たちと分け合って食べる。そんなシンプルな話も、おいしいもので園児を驚かせたいとの思いで考えた。妹の山脇百合子さんの絵も相まって大人気になる。

 児童文庫「鴨の子文庫」を開き、約50年にわたり子どもたちにお話を語ってきた間崎ルリ子さんは言う。

「中川さんの作品は、言葉のやりとりが生き生きしていて、話の展開が自然で引き込まれる。教訓めいたものや、親の視点から子どもをしつける内容などありません。子どもにおもねってもいない。面白く、はっきりと、分かりやすく、を貫いていて、子どもと共に大人も楽しめました」

トトロ「さんぽ」作詞を担当

 35年、札幌生まれ。戦後、岩波少年文庫所収の世界の児童文学に触れ、読書好きは深まる。東京都立高等保母学院に進み、56年から世田谷区のみどり保育園で働く。

 岩波少年文庫の編集者、いぬいとみこさんが主宰する同人誌に加わっていた。わがままできかん坊の保育園児が主人公の『いやいやえん』を著すと、児童文学作家の石井桃子さんや福音館書店の後の社長、松居直さんに注目され62年に刊行。

 子どもが使っている言葉で、子どもの感じ方、考え方の側に立って書いたのは、保育士の中川さんにとっては自然だったが、これまでにない児童文学と絶賛される。そして翌年、『ぐりとぐら』が反響を呼ぶ。

 作家専業になる気は全くなかった。72年の閉園まで保育士を続けた。

 児童文学作家のあまんきみこさんは言う。

「小学1年生の教科書向けに『くじらぐも』を書いた時の話を聞いたことがあります。国語を嫌いになったら責任重大だと、一字一句おろそかにしていません。子どもを信じ、想像力がさらに豊かになればと誠実でした。中川さんのお話を声に出して読むと良さが一層分かる。無駄な言葉がなく、リズムもいい。温かい気持ちになります」

 88年、映画「となりのトトロ」のオープニング「さんぽ」の作詞を担う。「あるこう あるこう わたしはげんき」でおなじみだが、宮崎駿さんは学生時代から中川作品のファンだった。

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