戦争景気で高級車が飛ぶように売れるロシア 経済は「バブル」状態でもウクライナとの停戦を検討すべき理由

国際

  • ブックマーク

ロシアで起きている「予想外のバブル」

 BRICS首脳会談を成功させたロシアは、経済が相変わらず好調だ。国際通貨基金(IMF)は22日、ロシアの今年の実質経済成長率を前回(7月)予測から0.4ポイント上方修正し、3.6%とした。

 軍事費を含む政府支出の急増などが引き金となって、ロシアの実質賃金は高騰している。

 ロシア政府の試算によれば、ウクライナ侵攻後の実質賃金は14%近く上昇しており、ブルーカラー層でこの傾向が顕著だ。織工の平均月収は3年前の4倍となる1400ドル、長距離トラック運転手の平均月収も前年比で38%増加している(9月30日付クーリエ・ジャポン)。

 懐が豊かになったことでロシア人はお金を湯水のように使うようになった。ロシア政府は、財・サービスの消費がウクライナ侵攻後に約25%伸びたとみている。高級自動車は飛ぶように売れ、住宅価格もうなぎ上りだ。西側諸国の厳しい制裁にもかかわらず、ロシアで「予想外のバブル」が起きている。

悩みの種は深刻な人手不足

 ITなどテクノロジー業界も我が世の春を謳歌している。ロシア国営タス通信によれば、首都モスクワで活動するIT企業に対する昨年の投資額は735億ドル(約11兆円)に上り、今年に入っても増加傾向が続く。

 西側諸国の制裁のせいで海外送金が妨げられたオリガルヒ(新興財閥)が国内に投資を振り向けていることが関係している。多額の資金が注ぎ込まれたおかげで、ロシアのIT産業は短期間で大きな進歩を遂げ、今や世界屈指の水準に達した。

 絶好調に見えるロシア経済だが、暗い影は忍び寄っている。悩みの種は深刻な人手不足だ。ロシアの8月の失業率は2.4%と、ソビエト連邦崩壊以降で最低を記録した。

 このため、労働市場における学生への依存が高まっており、鉄道建設や農業の分野で学生を組織的に動員する案が浮上している(10月9日付日本経済新聞)。

 労働力の制約が顕在化していることから、前述の通りIMFは今年の経済成長率予測を前回(7月)から上方修正したものの、来年については0.2ポイント下方修正し、1.5%とした。

ロシアのインフレリスクは高まるばかり

 危惧すべきはインフレが高進していることだ。

 9月のインフレ率は前年比8.6%増と高止まっている。4%のインフレ目標を大幅に上回っていることから、ロシア中央銀行は25日、政策金利を2%引き上げて21%にすることを決定した。2003年以降で最も高い水準だ。

「現在のロシアは第1次世界大戦中の状況を彷彿とさせる」との指摘も出ている(10月22日付Forbes JAPAN)。当時のロシア帝国も開戦当初は戦争景気に潤ったが、その後、戦死者の急増などが災いして深刻なインフレが起きた。このことが国民の憤りを招き、革命が起こった結果、滅亡した。

「現在のロシアが100年前と同様の経緯を辿る」と断言するつもりはないが、ウクライナとの戦争が長期化すれば、ロシアのインフレリスクは高まるばかりだ。政情不安を回避するため、ロシアはウクライナとの停戦を真剣に検討すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。