NHK「うたコン」が“3つの生”にこだわる理由 チーフPが語る舞台裏の苦労&忘れられない放送回

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観客がいるからできること

 そんな『うたコン』も、コロナ禍では無観客での放送となり、苦戦したという。

「’20年2月末の大阪でのうたコンが初の無観客放送で、しばらくそれが続いていました。無観客だとアーティストのパフォーマンスも変わってくるような気がします。無観客で歌うと、カメラリハーサルと本番が同じ風景。有観客ならばワンコーラスが終わって拍手が起きると、そのあとの2コーラス目はより一層盛り上がる事がありますが、それがない。ブラボーみたいな歓声や、大拍手もないですから、アーティストのスイッチの入り方にも影響が出るのではないですかね。そのような相乗効果は、お客さんのいるライブではないとできないし、ホールと客席との一体感はうたコンが大事にしている部分です」

 観客が入れられない時期でも、番組を休止するような動きはなかったという。

「前身の歌謡コンサートの時代から生放送で音楽番組を制作していることは、我々にとっての強みでもあるし、それが紅白歌合戦の放送に結実しています。毎週3,000人近いお客さんが観覧に来てくださることは貴重ですよね。うたコンは、年8回(程度)はNHK大阪ホールから放送しているのですが、近畿圏のお客様にも番組に触れて頂く機会になっています。そういう意味でも、大事な番組だという思いがあります」

忘れがたき放送回

 同じホールから毎週、ミュージシャンの生演奏をバックに歌唱するというスタイルは、お手軽に音楽を聴くことができるようになった現代だからこそ、その手間暇がかかったクオリティが評価されている。一方、スポンサーがないNHKだからこそ、視聴率を気にせず採算度外視で好きな番組が制作できるのでは?なんて意地悪な見方も……。

「NHKは視聴率があまり関係ないと言われているのですが、そんな事は決してないですね。うたコンは、総合テレビのゴールデンタイムに旬なアーティストを集めてお届けしている番組。視聴率は大きな指標ですし、NHKの番組だからこそ、多くの方に観られないといけないと思っています」

 今年度の放送で、反響が大きかったのはどの回だったのだろうか。

「『フォークソング特集』(‘24年9月10日放送)は、南こうせつさんや紙ふうせんのお二人に出ていただいたのですが、高視聴率を記録しました。『美空ひばり特集』(‘24年5月28日放送)は、やはり美空ひばりさんという唯一無二の存在なのでこちらは今年度最高の視聴率でした」

 最後に、チーフプロデューサーの立場から番組に込めた思いを聞いてみた。

「『作曲家 筒美京平特集』(‘24年6月4日放送)を放送した時に、本当に素晴らしい楽曲が多いなって感じたのです。作品を過去のものとして封印してしまわずに、今のアーティストがカバーすることで、若い世代には今の音楽のルーツを知ってもらえるきっかけにもなるし、“すごい!“と再認識してもらえるのはうたコンならではの魅力だと思います。NHKホールという場所で、ミュージシャンの生演奏が聴ける贅沢な番組です。ぜひ観覧応募もして頂いて、ホールで生放送を体験して頂きたいです。生で体感することで、舞台転換はこうやって行っているというような番組の裏側もわかるので、放送の楽しさも広がると思います。自分の子どもの頃の記憶とも重なるのですが、紅白歌合戦を始めとした音楽番組ってひとつの文化だと思います。それは今の若いディレクターにも継承していきたいですね。私たちは努力をしないといけないとプレッシャーもつねに感じています」

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【前編】では、世代間を越えたアーティストがコラボする「うたコン」の魅力について語ってもらった。

池守りぜね(いけもり・りぜね)
東京都生まれ。フリーライター。大学卒業後、インプレスに入社。ネットメディアで記者を務めた。その後、出版社勤務を経て独立。育児、グルメ、エンタメに関する記事のほか、インタビューも多数執筆。『一瞬と永遠』、『絶叫2』など、映像脚本も手掛ける。プライベートでは女児のママ。

デイリー新潮編集部

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