初恋の先生と「駆け落ち不倫」した42歳夫 3年ぶりの再会で妻が見せた予想外の反応とは
突然の帰宅に、葵さんの反応は
「3年たって、連絡もなしに家に戻ってみたら、ちょうど葵が家に入るところだった。僕を見た葵の顔、忘れられません。これ以上ないくらい目を見開き、呆然と突っ立ったまま。僕が近づくと、葵は『お帰り』と言いました。そのとき思ったんですよ、こっちの道のままでいればよかった、と」
当然、近所は大騒ぎになったのだが、その晩は誰も訪ねてこなかった。葵さんが止めたようだ。家族だけで話したいからと。
「3年見ない間に子どもたちは大きくなっていました、当然ですけど。とにかくこの3年間、申し訳ないことをした。謝るしかなかった。長男は中学を卒業して高校に入学したばかり。どういうつもりなんだよ、おかあさんのこと考えたのかよと責められました。いい子に育ったなと思いました」
子どもたちが寝静まってから、夫婦はぽつりぽつりと会話を重ねた。自分を取り巻く環境が嫌になっちゃうことってあるよねと、葵さんがつぶやいた。
「でもさ、高校時代のサッカーのときは、あなた、荒れて警察につかまったりしてたけど、今回は警察沙汰にはならなかったね、大人になったってことかなと葵が言ったんです。僕はそれを聞いて笑い出しちゃった。葵ってすごい女だなと思いました。『たとえ夫でも、人が飛び出していくときは誰にも止めることができないんだよね』と葵は言った。どうしたいと言ったら、わからないって。離婚はしていないわけだし、このままここで暮らしてもいいし。あなたはどうしたいのと聞かれたから、僕もわからないとしか答えられなかった」
さらに違うレールへ
3日後に雪乃さんと会う約束をしていた。雪乃さんの家は更地になっていたそうだ。義母が亡くなり、夫は家を売って越したらしい。私はひとりでやっていくわと彼女は言った。
「あなたは家に戻りなさい。戻れるわよって。ただ、ひどいヤツだと思われるでしょうけど、僕にとって家族の意味がわからなくなっていた。僕の本音としては、違うレールを走ってみたら、さらに違うレールへと移りたくなった。家族とも雪乃とも離れて、もう一度人生をやり直してみたいというのが本当のところでした」
雪乃さんは「ありがとう。私はひとりでやり直せるわ」とひらひら手を振って去っていった。
その後、由晴さんは結局、家庭には戻らず、東京に出てきて郊外で生活している。もう一度、職人としてやり直しているところだという。
「葵とはときどき連絡をとりあっています。子どもたちの学費のことを心配したら、今さらあなたに心配されなくても、周りがみんな助けてくれてるわよって。葵の両親は今も元気だそうで、ほっとしています。あんなに親密な関係だったのに、僕がみんなを裏切ったことになるんですよね」
何が自分をあんな思い切った行動に駆り立てたのか、由晴さんはときどき思い返して分析しようと試みるのだが、自分の気持ちの変化が見えてこないのだという。
「よくわからないんですよ、自分でも自分のことが。ただ、大家族の楽しかった日々のことは忘れてはいません。そこへ戻りたいかどうかがわからないから苦しいんですけどね」
自分が自分に裏切られた。そんな気分が強いと彼はため息交じりに言った。
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万事順調だった由晴さんの人生に“揺らぎ”が生じたのは、37歳の時だった。その過程は【前編】で紹介している。
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