初恋の先生と「駆け落ち不倫」した42歳夫 3年ぶりの再会で妻が見せた予想外の反応とは

  • ブックマーク

雪乃さんの身の上話に衝撃

 離婚しちゃえばいいのにと由晴さんはつぶやいた。そうもいかないの。義母は私の大学進学の費用を出してくれた人だからと彼女は言った。

「彼女の身の上話を聞いて、僕は衝撃を受けました。彼女は幼い頃に父を病気で亡くして母親とふたり暮らしだった。貧しかったそうです。大学など行けるはずもないと思っていたら、母親がパートで働いていた会社の社長夫人が娘を大学まで行かせてあげると言ってくれた。娘のためならと母親は思わずすがってしまったそうですが、結局、そのせいで彼女はその社長夫婦の息子と結婚させられた。あげく、会社は破綻、息子は仕事が続かない、社長は急逝ということで、彼女が義母のめんどうを見ているというわけです」

 塾の先生をする予定なの。なんとか食べてはいけると思うと彼女は自分を奮い立たせるように話した。

「ふたりでどこかへ行って暮らそうか。僕の口からそんな言葉が出てしまった。人生を変えたい。僕自身がそう思って悶々としていた。その気持ちに弾みをつけて実現させるために、彼女が現れたに違いない。そう感じたんです」

 彼は本気だった。彼女は「絶対に無理」と言っていたが、「ふたりで別の世界で生きよう」という彼の言葉に徐々に気持ちが傾いていったようだ。

「男女の関係にもなりました。それが……あまりによかったんですよ。彼女も、もう離れられないと言い出して。快楽に溺れたのは初めてでした。こんな関係を続けてはいけないと頭で考えたこともあるんだけど、彼女と交わる快感にはなにものも勝てなかった」

お互いだけが頼りのささやかな生活

 春、長男の中学の入学式を見届けて、彼は彼女とともに失踪した。どこへ行くとも決めていなかった。

「僕らとは縁もゆかりもない土地に落ち着いて、一生懸命働きました。小さなアパートで暮らしていたんですが、幸せでした。彼女は塾の先生をして、僕は職人として町工場で仕事をして。最初は、誰かに見つかるんじゃないかとビクビクしていましたが、そのうち案外、誰も追ってこないものかもと思うようになった」

 携帯電話も解約し、しばらくは携帯をもたない生活を続けていた。お互いだけが頼りのささやかな生活の中で、ふたりは心身ともに満たされていった。

「無責任なのはわかっていたし罪悪感もあった。でも彼女との生活は、それらすべてを考えても、やはり満たされるものがありました。これが本物の愛なんだと思った」

 休みの日には釣りに出かけ、釣った魚をさばいて調理した。雪乃さんは目を見開いて「あなたってすごい」と言ってくれた。お互いをいたわり合いながらの小さな生活が3年間、続いた。

「ある日、雪乃が言ったんです。『私、50歳になってしまったの。もうこれ以上、若いあなたを道連れにするわけにはいかないような気がする』と。彼女は僕よりずっと罪悪感に苦しんでいたんでしょう。そのころ、夜中によくうなされていました。義母や夫のことが気になっていたんでしょうね。電話だけしてみればと言うと、『この生活をずっと続けたいけど、そうすると私たち、死ぬまで隠れていなければいけないのよね』って。それでもいいと僕は思ってた。もし先に雪乃が死んだら僕も後を追うとも言っていた。でも雪乃としては、人としてこのままではいけないという思いが強くなったみたいでした。本当の愛と、俗世の生活のどちらがいいんだと僕が迫ると、『人としてどうかって大事なことだと思う』って」

 いったん帰って、それぞれに話をつけてまた会おう、そのとき気持ちが変わっていなかったら離婚して再婚する。そのほうが人としてまっとうだと思うと雪乃さんは真顔で言った。

「やはり王道から外れた道を、ずっと歩くわけにはいかないんでしょうね。雪乃にそう言われると、僕も葵のことや子どものこと、仲良しだったあの大家族を思い出しました。僕にとってはどこか遠い感じがしたけど、あの人たちを嫌いになったわけでもうっとうしかったわけでもない。僕の気持ちに何が起こって何が歪んで、雪乃とふたりきりの生活を選んだのかもよくわからなくなっていた。過去がすべて幻か夢だったかのような感じです」

 そういうことはあると筆者も思わずうなずいた。ときどきふと、自分が歩んできた道が現実でなかったような、ずっと何かが間違っていたような、説明のつかない虚しさに、人は襲われることがあるのかもしれない。だからといって、由晴さんのように何もかも捨てて新しい人生を歩む勇気は、一般的には持てないものだが。

次ページ:突然の帰宅に、葵さんの反応は

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。