どこに不倫する“隙”が?幼なじみと地元で築いた幸せな家庭…42歳夫の「世界」が揺らいだ出来事
37歳で起きた事件
60代に入ってもふたりの両親は元気だった。だが由晴さんが37歳のとき、67歳になった父がある日突然、還らぬ人となった。まだ現役の職人だった父は、朝早く起き、犬と一緒に散歩をするのが日課だった。ところがある日、母が目を覚ますと父は寝たままだった。
「あれ、おとうさん、今日は散歩いかないのと声をかけたけど様子がおかしい。すでに冷たくなっていたそうです。母はまったく知らなかった、気づかなかったと。結局、心臓だったみたいですが、父は毎年、健康診断を受けていてひっかかったこともなかったんですよ。本当に突然、心臓が役割を終えたと勘違いして止まったとしか思えなかった」
みんな呆然とするばかりで、人数の多い家族なのに、だれも冷静ではいられなかった。ようやく義弟が葬儀社を呼んで、ようやく通夜や葬式をすませることができた。その後も、世の中のすべてが止まったようだったと由晴さんは言う。
「みんなが現実に少しだけ戻ったのは、父の四十九日が済んだ日ですね。いろいろ話しあって、これからもおとうさんのためにも仲よくやっていこう、と。誰かがリーダー格というわけではなかったように見えたけど、実際には父がいろいろ気を遣ってくれていたんだなとよくわかりました」
由晴さんの心にも、ぽっかりと穴があいた。親を好きだとかかけがえがないとか、そんなきれいな言葉で考えたことはなかったが、「いて当然」だと思い込んでいたのだと改めて感じた。親孝行ひとつしたことがなかったし、年中、顔を合わせて言いたいことを言い合っていたが、それがどれだけ幸せなことだったのか……。
「子どもが大きくなれば、親は年とっていなくなっていく。そういう循環なんだなとあのときは身に染みました。同時に、それがいいことなのかどうかわからなくなっていった。脈々と続く血の流れみたいなものを、僕は自然に受け止めていたけど、なんだか急に嫌になったというか怖くなったというか。うまく説明できないし、自分でも整理がつかない気持ちなんですが、家族って何だろうと考えてしまったんですよね」
彼は「自分の世界は狭かった」と言った。子どもの頃からずっとひとつの地域で育ち、友だちもほぼ地元だけ。父と同じく自転車で行ける工場に勤め、結婚相手も幼なじみの仲良し、家族同士もひとつの家族になった。
「父が欠けて、そういう環境がどこかいびつなのではないかと考えてしまって。考えなくてよかったのかもしれないけど、自分の37年間がいったい何だったのかわからなくて」
そんなとき、彼は「忘れられない人」に再会した。
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その再会によって、由晴さんの家庭と人生は思わぬ方向へ――。【後編】でそのてん末を紹介している。
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