取手市「中3いじめ自殺」10年目の真実に迫る なぜ調査報告書はでっちあげられたのか
虚偽の事実を認定
そして、美恵子さんの自殺の直前、担任教諭が「自殺の引き金を引いた」とされた事件についてである。
2015年11月10日の午後、美恵子さんとA、Fの3人が、帰りの会が始まる直前、上の階に行き、そこでAが誤ってガラスを割ってしまい、3人は帰りの会に遅刻した。しかし美恵子さんはガラスの破損に関与していない。
梶原教諭は他の生徒からこのことを聞いていたが、美恵子さんやAたちがこれまでも帰りの会や給食の時間に遅刻したことがあったため、ガラス破損のことではなく、時間を守れなかったことについて「生活を引き締めるように」と3人に注意した。厳しい叱責もなく、ガラスを割っていない美恵子さんにガラスの弁償を要求したこともなかった。
ところが調査報告書は、
「担任教諭も、詳細な事実関係を把握しないまま、本件生徒にも(ガラス破損の)連帯責任があるとして指導したほか、ガラスの弁償にも言及した」(同概要版)
と、虚偽の事実を認定した。さらに、
「この指導は、本件生徒に対し、絶望の感情を抱かせただけでなく、いじめにより心理的に追い詰められていた本件生徒をさらに深い苦しみへと陥れたもの」(同概要版)
と、ここでもまた、美恵子さんの心中を勝手に推測している。
確かにこの事件の直後、美恵子さんは友人達の前で泣いているが、それは母親に叱られることを極度に恐れたためで、その旨、友人に訴えている。
偏った調査の果てに
そもそも自殺は、いくつもの要因が複合的に重なって起きるというのが、専門家らの一致した見解である。また警察庁の長期の統計によれば、自殺の原因、動機の上位に挙がるのは、小学生の場合「家族からのしつけ・叱責」。中高生の場合は「学業不振」「進路の悩み」などで、いじめが原因の自殺は実はそう多くない。
従って調査に当たっては、いじめの有無だけでなく、当人の成育歴や家庭環境、精神状態など幅広い要因が検討されるべきだ。ところがこの調査報告書は、いじめや担任教師の問題点など、ほぼ学校内に焦点を絞った内容である。偏った結果になることは目に見えている。なぜこうした調査になったのか?
最初の取手市による調査委員会の委員長だった国士舘大学特任教授(当時)の中込四郎氏は、同委員会が解散した際、記者会見でこう答えている。
「自殺は複雑な要因が絡み合った可能性もあるとして、『さまざまな観点から調査しようとしたが、ピンポイントでいじめについて調べてほしいという遺族と意識のずれがあった』」(茨城新聞2017年6月13日朝刊)
ここまでは中立性が保たれていたのだ。だが、県の調査報告書は違った。そのために、教諭は塗炭の苦しみを味わうことになったのである。
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