「マイナス20度」で朝食を作ったら“予想外の大ピンチ”に…「南極料理人」が明かす「極限体験」365日

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 食糧調達から帰りのしらせでの船旅まで、1年9ヶ月を駆け抜けた中川さん。3月末で隊員としての契約が満了となり、第64次隊は解散となった。空港で再会したとき、子どもたちはずいぶん大きくなっていた。

「子どもたちをとりあえずギュって抱きしめました。すると、嬉しそうに手を繋いでくれて、私も嬉しくなりました。ビックリしたのは、一番下の子が喋ってること。小さい子供とのコミュニケーションはスマホごしだと会話は難しかったので。 喋るし一人で歩いていることを見て成長を感じました」

 その後、彼のところには小中学校などから南極をテーマにした講演の依頼が相次いでいる。その一方、日常を取り戻すために中川さんは日々、努力を重ねている。

「南極に行っていた間、休店にしていた自分の店の、賃料で出た赤字をカバーする必要がありました。だから休養をとるわけにもいかず、再オープンの準備を始めました」

 6月に店を再開し、日常に戻った。

「今は、お客さんに南極の報告をしながら、料理を提供しています。妻にしても常連のお客さんにしても“終わってみるとすぐだったよね”って。妻にはその間、家事や子育てを頼りっぱなしで本当に感謝しかありません。360度、真っ白な雪原に身を置けたり、毎日オーロラの写真を撮れたり。28人のみという限られた人間関係の中で300日以上過ごしたり。そうした特殊環境に身を置いて生活できたというのは、とても良い経験でした。大変なこともいろいろとありましたけど、日本にいれば絶対できない経験を様々できて、行ってよかったと心から思います」

【前編】では、「氷山で流しそうめん」など、南極での貴重な体験について詳述している。

西牟田靖(にしむたやすし)
ノンフィクション作家。1970年大阪府生まれ。日本の国境、共同親権などのテーマを取材する。著書に『僕の見た「大日本帝国」』、『わが子に会えない』、『子どもを連れて、逃げました。』など。

デイリー新潮編集部

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