「袴田さんが10歳若ければ控訴したはず」…死刑執行を防ぐ契機を作った世田谷区長が指摘する「検察のメンツ」

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いまだに袴田巖さんが犯人と信じる人たち

 中川さんは事件が起きた清水区の横砂地区など巖さんの足跡を辿った。そこで出会った人たちには無罪を信じない人も多く、大半は口をつぐんだ。ボクサーを引退した巖さんが経営していたバー「暖流」近くの飲食店を訪ねた時のこと。

「マスターも巖さんが犯人と思っていた上、奥さんには『もう。十分に償ったんだからいいでしょう』と言われました」

 再審判決後、「模擬裁判」のイベントに参加した中川さんは、再審で無罪判決を下した国井恒志裁判長(58)に礼を言った。検察が控訴を断念した10月8日の朝も支援者らとオンライン署名を求めるチラシを配り、マイクを握って署名を訴えた。

 10月14日、静岡労政会館 で完全無罪報告集会が開かれた。映画「ロッキー」のテーマソングが流れる中、名リングアナウンサーだった須藤尚紀さん(62)が「WBC名誉チャンピオン、袴田巖―っ」とアナウンスし、巖さんとひで子さんが弁護団と握手しながら壇上に上ると、こう挨拶をした。

「長い戦いがございました。やっと無罪、完全無罪が実りました」(巖さん)

「無罪になって勝ったんだよって言ってるんですけど、まだ(弟は)半信半疑でいるようなところがあるんです。みなさんにお祝いしていただいているうちに実感として沸くと思います」(ひで子さん)

 巖さんはチャンピオンベルトを身に着けた。壇上で2人に花輪を贈呈した中川さんは「再審裁判で巖さんに死刑求刑した検察官の顔は絶対に忘れません。この冤罪事件を後世にずっと伝え続けます」と力を込めた。

 畝本直美検事総長(62)は判決について「到底承服できない。控訴すべき内容」としながらも、「袴田さんが長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれ、控訴は相当ではない」との談話を出していた。弁護団は「犯人扱いしている内容で名誉棄損」と撤回を申し入れた。

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