1200万人動員の韓国ホラー「破墓/パミョ」は「反日」映画か? 「娯楽映画に政治を見る」ことの愚
作品の源泉となっている日本カルチャー
こうした作品が韓国で大ヒットを記録したと聞けば、「韓国はいまだに反日映画なのか」と思う日本人は多いだろう。実際に韓国でも「反日マーケティングが功を奏した映画」とも言われているようだが、それはデータから見える事実とは異なる。
韓国ではコロナ禍以降、日本で言うところの「反日的」な作品――倭寇を蹴散らした英雄イ・スンシン将軍を描く「ハンサン 龍の出現」も、伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)が主役の「英雄」も、名優イ・ソンミン演じる狂気の老人のチニルパへの復讐劇「復讐の記憶」も、日帝時代のある暗殺計画をスター総出演で描いた「PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ」も――軒並みコケている。
損益分岐点をようやく超えたのは、大ヒットシリーズの2作目である「ハンサン 龍の出現」のみで、「反日的」な作品は若い世代から「クッポン」(国+ヒロポン=麻薬的な愛国主義)という言葉で揶揄されることもしばしばだ。そういう状況下での「破墓/パミョ」の大ヒットは、観客が特に「反日的」要素に反応したことによるものとは考えにくい。
ならばなぜヒットしたのか。その理由は極めて単純にエンタテイメント作品として面白いからなのだが、その源泉となっているものが日本のカルチャーなのだ。
チャン・ジェヒョン監督は、日本のカルチャーが公式・非公式に韓国に浸透していった時代に育った81年生まれ。「映画を学んでいた若い頃に最も影響を受けたのは日本の映画と漫画」と公言し、プライベートでの訪日経験は50回を超える。
「破墓/パミョ」の後半で登場する“ヤバイもの”にも、あらゆる部分で日本の影響が見て取れる。その声を演じているのは日本屈指のある人気声優だ。これまでの韓国映画なら、カタコト日本語の韓国人や、日本語が流暢な無名キャストというパターンだが、監督は日本のアニメで惚れ込んだその声優にオファーしている。そして映画をよくよく見れば、この“ヤバイもの”が全世界を探しても日本にしか存在しない「妖怪」であることもほのめかされている。
監督は「妖怪」が好きすぎて、大学時代は「妖怪研究会」にいた らしい。つまりこの映画は、日本文化へのオマージュとリスペクトに満ちたホラー映画なのである。筆者はそうした映画を「反日的」とは感じない。
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