ハン・ガン氏が「アジア人女性初のノーベル文学賞」を手にした理由

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「受賞のニュースには驚きましたけど、彼女はいつかノーベル賞を取るだろうと思っていました。韓国だけではなく、日本や欧米でも通用する作品を書き続けてきたからです」

 そう話すのは、東京・神田神保町で韓国文学の翻訳作品を出版する「クオン」代表取締役の金承福氏だ。10月10日、ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン(韓江)氏(53)の翻訳作品を日本で最初に手がけた編集者である。2011年に出版した『菜食主義者』がそれで、金氏はこれまで彼女の作品の日本語版を4冊出版している。

「ハン・ガンさんは、以前から韓国ではとても有名な作家で、私が『菜食主義者』の日本語版出版をお願いした時点で、すでに“李箱文学賞”を受賞していた方です。日本でいうと芥川賞にあたる文学賞です」(同)

 後に英ブッカー国際賞を受賞し、今回のノーベル賞にもつながったとされる同作品は、突然、肉食をやめてしまった女性「ヨンヘ」が痩せ衰えてゆく姿を、家族の目から描く一風変わった設定だ。

「物語は3篇から成っており、それぞれ全く別の視点で語られながら交差し、つながってゆく。その圧倒的な構成力が翻訳書によって海外でも評価されていったのです」(同)

好きな作家は夏目漱石

 当時、金氏は「新しい韓国の文学」というシリーズを企画していたが、第1作として同著を強く推したのが、ハン・ガン氏の長年の知人でもある翻訳家のきむふな氏だ。

「彼女のお父さんも有名な作家(韓勝源〈ハンスンウォン〉氏)で、1980年代から日本の文学界とも交流がありました。それもあってか、ハン・ガンさんは2013年に来日し、中上健次さんが作った文化組織『熊野大学』で中上さんのお嬢さんたちと鼎談したことがあります」

 好きな日本の作家はいるのかと聞いてみると、

「以前、夏目漱石が好きと言っていたことがあります。もちろん、日本の現代文学にも好きな作家がいるはずですが、それについてはあまり彼女と話したことがありません」(同)

 韓国では彼女の作品の売れ行きは、受賞以降だけで100万部に達する勢いだという。

 日本でも、都内最大の書店・ジュンク堂池袋本店は売り切れ、3番目に大きな紀伊國屋書店新宿本店も「ハン・ガンコーナー」は空っぽで次の入荷は10月末。丸善丸の内本店には残り1冊だけ。申し訳ないが、本誌(「週刊新潮」)記者が買わせていただいた。

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