「ボールに水かけ」をジュニア世代が真似たら… 誹謗中傷騒動J1「町田」をJリーグ関係者はどう思っているのか

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「子どもに見せられない」

 実際、Jリーグの関係者に聞くと、「町田のサッカーを子どもに見せられない」という声も少なくない。また筆者も、少年サッカーのコーチから「子どもが真似し始めたらどう指導して良いのかわからない」と悩みを吐露されたことがある。

 先のボールの交換をジャッジされた試合の後、黒田監督は「審判団は(水かけについて)見解を示してほしい」とコメント。それを受けて審判団は、「競技規則に“ボールに水をかけてはいけない”という記載はない」とした上で、「“かけてもいい”とも書いていない」(JFA佐藤隆治審判マネジャー)と苦渋の見解を示した。

 その後、記者から「あなたがクラブのコーチだったら、子どもにそういう指導をしますか」と問われて、「しません」と即答している。

オーナーの鶴の一声

 黒田監督は、青森山田高校で28年間指導し、全国高校サッカー選手権大会で優勝3回を遂げる強豪に育て上げた。教え子には、鹿島アントラーズの柴崎岳(元日本代表)や、U23代表でスュペル・リグ・ギョズテペSK所属の松木玖生などがいる。その黒田監督に目をつけたのが藤田オーナーだった。

「町田は22年、J1昇格を目指し、新監督を招聘しました。強化部の意中の人物は元日本代表の反町康治さんや戸田和幸さんなどでしたが、藤田オーナーの“鶴の一声”で黒田監督に決まった」(前出記者)。

 黒田監督の指導は確かに熱い。プロの選手たちに「君たちは高校生より下手くそだ」とムチを入れ、他のJクラブでは珍しく、攻守にそれぞれ担当コーチを置く。青森山田時代をよく知るJクラブの監督経験者は「黒田さんのやり方には一点のブレもないですよ。高校時代から勝つためならなんでもやれ! ですから」と言う。試合中、コーチたちが一気呵成に審判団や相手選手に“口撃”する場面は、今季のJ1ではお馴染みの光景になった。「黒田軍団」の誕生である。そして彼のバックにはオーナーがいる。逆らえば「クラブでの“居場所”は無くなります」(前出記者)

擁護する声も

 一方で、町田を擁護する声ももちろんある。ボールへの「水かけ」はともかく、南米や欧州では、ホームゲームになると、事前に自チームが攻撃するエンドに水を撒いたり、芝に“細工”をしたりすることはまま見られる。「マリーシア(ずるがしこい行為)」をしてまで勝利をもぎ取ろうとする執念は、日本と比べて桁外れに強い。南米や欧米ですら稀である「水かけ」までして、批判をものともせずに勝負に徹する町田と黒田監督の姿勢は、勝利への執念の薄さ、すなわち、日本が未だサッカー強国となれない理由のひとつを、いささか乱暴なやり方ではあるが、わかりやすい形で指し示しているとも言える。

 町田は完全にJリーグの悪役と化した。それは今季の観客動員を見てもわかる。今季はホーム(町田GIONスタジアム)よりもアウェーでの1試合平均年間観客動員が多く、既に2万人を突破した。町田のスタジアムが交通の便が悪く、収容規模が少なめという理由がある一方で、町田と対戦する時は、相手サポーターの「ヒール・チームに負けられない」との意識が高まり、応援の熱量が増すという側面もあるのだろう。

 町田のサッカーをどう評価するか。それはその人のサッカー観の写し鏡である。誹謗中傷が許されないことはもちろんだが、それを前提とした上で、この問題の是非をファンがタブーなく議論することは、日本サッカー界の発展のために必要なことではないだろうか。

小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター

デイリー新潮編集部

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