「ごめん。キャンセルでお願い」 注目エッセイ集『死なれちゃったあとで』の著者が経験した、思わず人生を後押しされた「屈辱」とは
もしあの一件がなかったら……
現在に戻ります。今年、自分の死別エピソードをつづった『死なれちゃったあとで』というエッセイを出版した。執筆している最中はそう思わなかったのだが、書籍の形になって読み返していると、「移動」が裏テーマのようになっていることに気付いた。住む場所を変えていたら、思い切って違う環境に移動していたら、その人は死を選ばずにすんだのではないか。そう思わせるエピソードがいくつかあった。
そこで「ちゃんとしたライターが見つかった」の一件を思い出したのである。あれで福岡を捨てるふんぎりがついたけれども、もしあの一件がなかったら自分はどうなっていた? きっかけが何もないまま上京を決める度胸はなかったと思う。とすると、そのまま地元に残り続けて、じわじわと追い詰められていたのではないか? すでにこの世にいない可能性も否定できない。
だから。
あの決定的な屈辱が、自分の人生を後押ししたのだ。あれがなかったら、おそらく今の自分はない。ちゃんとしたライター、見つかってよかったですね。17年越しの嫌み、今なら言える。
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