「不適切にもほどがある!」で喫茶店マスターに 沼田爆さんが“名脇役”たる理由【追悼】
「鬼平犯科帳」に欠かせない存在
テレビドラマで脇役として重宝されていた沼田爆さんは、1989年にフジテレビで始まった時代劇「鬼平犯科帳」で番組に欠かせない存在となる。
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二代目中村吉右衛門が扮する“鬼の平蔵”こと火付盗賊改方、長谷川平蔵を中心に同心、密偵が活躍する捕物劇で、沼田さんは料理番の村松忠之進の役に。“猫どの”と呼ばれ、普段は穏やかだが、食の話となると冗舌になる姿が話題となった。
同心を相手に「米のうまさがしみじみと分かるのがこの握り飯だ。いやあ、全くもってありがたいもんだ。まぶす材料を変えただけでさまざまに変化する。いい女がそうだな。ちょっと化粧を変えただけで、まるで別人のように変わる。おむすびはつまりいい女だ――」などと延々と語ったかと思えば、軍鶏鍋を前に「おい、煮過ぎじゃねえか」と言う平蔵を制して「大丈夫でございます。はい、しっかり見ております。鍋を囲む時は鍋奉行にお任せ下さいまし」などと軽妙に返す。
「鬼平犯科帳」の監督を務めた一人である、吉田啓一郎さんは振り返る。
「料理の場面は捕物の緊張感の中でユーモアがあり、ほっとするところで、爆さんのひょうひょうとした感じが合っていました。邪魔にならない俳優です。食の講釈を垂れても目立ち過ぎず、印象は残す。その加減をよく分かっていた。礼儀正しく神経の細かい面もあり、現場で好かれたベテランです」
料理番“猫どの”は池波正太郎の原作にはない設定。沼田さんの魅力で定着した。
「一歩引いて皆を立てる人」
40年、東京生まれ。明治大学に進み、劇団四季を経て仲間と劇団を興す。資金作りのため自動販売機のセールスマンをしたところ大成功。おっとりした雰囲気に説得力のある話し方で、相手の心をつかんだらしい。後の芸風に通じる面がある。本人は迫力のなさが悩みで、本名の沼田知治をもとに、芸名に爆発の爆を付けた。
60年代末からNHKの教育テレビに出演。「おかあさんといっしょ」で口ひげをたくわえ、優しい目をした“バクおじさん”として人気者に。70年代半ばには朝のワイドショー「小川宏ショー」のレポーターに抜てきされ、滑稽味も親しまれた。
77年、NHK連続テレビ小説「いちばん星」の出演後、ドラマの脇役出演が急増した。職人、食堂の店主、執事、中間管理職、公家、妖怪など役柄は幅広い。「鬼平犯科帳」の監督を担った一人、酒井信行さんは思い返す。
「せりふに聞きほれました。こう表現した方がよりおいしそうに伝わるのでは、と工夫されていた。一歩引いて皆を立てる人でした。料理を介した同心仲間や平蔵とのやりとりで、他の場面にはない表情や雰囲気を自然と引き出したのも爆さんの力です。平蔵が亡くなったらしいと知った時、手にしていた豆腐を思わず握りつぶすのは爆さんの提案でした。大切な食材を粗末にしてしまうほどの衝撃を表そうとしたのです。料理人の気持ちになりきっていた」
本人は食にこだわりがなく料理もしなかった。いかりや長介主演「取調室」の同僚刑事や、反町隆史主演「GTO」でおとなしい教師を好演するなど仕事は途切れない。
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