ハリス勝利なら「選挙結果に異議」、トランプ勝利なら「軍隊出動」も…「米大統領選」どちらが勝っても混乱は必至

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トランプ氏勝利なら軍隊使用の可能性も

 2021年1月6日の連邦議会襲撃のような事件が再び起こる可能性も排除できない。専門家は「極右グループの暴力的な行動よりも、票を集計している選挙職員が危険にさらされることの方が心配だ」と危惧している(10月16日付ロイター)。

 トランプ氏敗北後の混乱に対する警戒感が高まっているが、同氏が勝利すれば、権力の移行は円滑に実施されるのだろうか。

 トランプ氏は13日、米FOXニュースのインタビューで、大統領選当日に「内なる敵」に対処する目的で軍隊を使用する考えを示唆した。「急進左翼の異常者」による混乱が心配だというのがその理由だ。

 ハリス氏は14日、「(この発言について)錯乱しており、無制限の権力を求めている」と切り捨てたが、筆者は、トランプ氏の主張にも一理あるのではないかと考えている。

 トランプ氏が12日にカリフォルニア州で開いた選挙集会の会場付近で、散弾銃などを大量に保持していた男が逮捕された。トランプ氏への暗殺未遂事件はこれで3度目だ。

「トランプ氏が勝利すれば、米国で史上最高レベルのメンタルヘルスの危機が生じ、暴力の嵐が吹き荒れる」と指摘する政治アナリストもいる(10月17日付ZeroHedge)。

民主主義への信頼感は過去最低水準

 民主主義の世界的権威と呼ばれる米スタンフォード大のラリー・ダイアモンド教授は、18日に配信された毎日新聞のインタビューで「もしトランプ氏が勝てば、米国の民主主義は深刻な危機にさらされる。権威主義的傾向を抑制することができるのは、もはや裁判所と市民社会などに限られる」と危機感を露わにした。

 これらのことからわかるのは、トランプ氏が勝利したとしても、権力の移行が円滑に進む保証はないということだ。

 米国では「選挙結果を信用できない」との認識も広がる一方だ。制度の根幹である選挙結果が受けいれられなければ、民主主義が深刻な機能不全に陥るのは言うまでもない。

 今年のノーベル経済学賞は、米国に拠点を置く学者3人の「社会制度はどのように形成され、繁栄に影響を与えるのかについての研究」が受賞した。

 受賞を受けて14日に記者会見した米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授が、「民主主義を機能させるのは時間がかかる難しい作業だが、一般的に民主化した国はより早く成長し、より平等な形で成長する」と述べているものの、皮肉なことに米国における民主主義への信頼感は過去最低水準になってしまった感が強い。

最大のリスクは米国債のデフォルト

 米アトランタ地区連銀のボスティック総裁は18日、大統領選を巡る不確実性により消費や企業投資が停滞する可能性があるとの見方を示した。だが、最大のリスクは米国債のデフォルト(債務不履行)だろう。

 米国では1917年に連邦債務の上限が法律で定められた。昨年1月にはその限度額(31.4兆ドル)に達しているが、昨年6月に成立した「財政責任法」により、今年末まで国債を発行することができる。だが、債務上限に関する新たな合意が年内に成立しなければ、来年前半に史上初めてのデフォルトに陥ってしまうのだ。

 米格付け会社ムーディーズによれば、デフォルトが4カ月継続した場合、米国の実質国内総生産(GDP)は4%下落、600万人が失業し、株価は3分の1下落する。

 米国経済が絶不調となれば、世界経済全体も深刻な不況になってしまうことだろう。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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