迷走する「令和の刑事ドラマ」に“オカルト”を投入!? 藤原竜也主演ドラマ「全領域異常解決室」は吉と出るか凶と出るか

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 刑事ドラマが迷走し切った。新奇性のある部署や秘密部隊を作り倒して差別化を図るも、結果的には警察の不祥事や権力争いという定番に陥りがちで、「相棒」一人勝ちという悲しき現実。何周も回って、今ここ令和、そろそろオカルトや超常現象の出番ですね。この数年、吸血鬼や雪男、妖怪や天狗はちょいちょいドラマに登場したものの、「X-ファイル」を知らない世代も増えたことだし。ということで「全領域異常解決室」に期待が寄せられているようだ。

 主演は藤原竜也。演じるのは内閣官房直属の全領域異常解決室(通称・全決)室長代理で、超常現象が専門の興玉雅(おきたまみやび)。科学で解明できない異常事件が起きると捜査に協力。冷静沈着な男だ。

 この全決に新しく配属されたのが、広瀬アリス演じる雨野小夢(あまのこゆめ)。警視庁の総務部で音楽隊に所属していたが、突然出向を命じられて困惑。オカルトや超常現象に懐疑的で、まともに捜査をしたこともないド素人が、都市伝説級に得体の知れない機関に放り込まれる。懐疑的なのは捜査一課の面々も同様。昔ながらの警部・荒波(ユースケ・サンタマリア)や、無駄に男言葉の二宮(成海璃子)は全決を煙たがる。若手の北野(小宮璃央)だけは興味津々。奇しくも神社名の刑事たちは仕方なく全決に協力を求める。

 竜也、出だしはテンション抑えめ・トーン控えめ。とにかく初回は説明事項が多くて、丁寧にもほどがあるくらいに解説に次ぐ解説。海外ドラマならしれっとすっ飛ばすのに。ま、それもこれも日本古来のオカルトには由緒正しい歴史があるからかな。大河ドラマのおかげで、陰陽師や呪詛人形(ひとがた)も脚光を浴びていることだし。

 初回は遺体なき殺人現場。被害者は衣服や所持品、毛髪と大量の血液を残して行方不明に。異様な現場から「神隠し事件」と呼ばれる。蛭児(ヒルコ)と名乗る人物から犯行声明が出され、類似の事件が相次ぐも、被害者が富裕層や成功者だったことからネットは盛り上がり、ヒルコネタの動画配信で荒稼ぎする輩も登場。姿なきヒルコは国民の恐怖をあおり、内閣官房は懸念して、全決に捜査を依頼。審議官で官僚の直毘(なおび・柿澤勇人)もオカルトには眉唾だが、上意に従うしかない。元地下アイドル夫妻(吉村界人・志田未来)はヒルコ騒動に便乗して、大切なものを失う。

 劇中に、オカルトに対するアンチとシンパを混在させ、逆に神秘と謎の解像度が上がっている。いつにも増して漢字(とフリガナ)が多い原稿なのも全決ならでは。

 昭和の時代、超常現象の類はホントに不可思議だったが、映像技術が進んだ令和では素人でも作り出せるようになった。要するに同じ現象を再現できちゃうわけだ。そりゃフェイク動画を作る承認欲求モンスターも生まれるだろうよ。流言蜚語の無責任な妄信&拡散が日常茶飯事の令和に、オカルトは案外しっくりくるテーマなのかもと思った。

 謎の配達人・芹田(迫田孝也)や傍観者・豊玉(福本莉子)の存在も含め、「古事記」を参考図書に視聴したらきっと面白い。温故知新の挑戦は吉と出るか凶と出るか。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年10月24日号掲載

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