不倫相手と妻が溺れていたら、どちらを助けるか――40歳夫の「答え」に見る波乱の人生

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その相手は、案の定…

 美帆さんは「離してよ」と叫んでいたが、彼は離さなかった。どうしてオレがいるのに、あんな男とつきあうんだと怒りがわいた。しばらく走ってから、ようやく彼は立ち止まった。美帆さんの荒い息づかいに勇気づけられたように彼女を抱きしめてキスした。

「やめてよと言っているのに彼女は応じてきました。落ち着いてから、あの男が好きなのかと聞くと、『バイト先の社員でね、奥さんとはうまくいってないんだって。それなら私が一緒になってあげたいと思ったの』って。そんなの騙されているに決まっていると言ったら、私たちは愛し合ってるの、あなたに何がわかるのって泣きだして。恋愛ってすごいなと思いました。いつもの彼女はそこにはいなかった」

 ただ、雅斗さんは正しかった。美帆さんが「彼が妻と別居したと言っている」と聞いたので、尾行して調べたのだ。男がチャイムを鳴らすと妻が笑顔で迎えに出ていた。雅斗さんはそれを美帆さんに正直に告げた。

「残酷なことするのねと美帆は僕を睨みました。騙されていたとしても幸せな時間だったのに、僕がそれを奪ってしまったんでしょうね。でもあのままで美帆が将来的にも幸せになれるはずがない。どうしてそんな無意味な恋愛をするんだろう。なんだか人の心理がわからなくなりました」

「いつまでたっても、世間の常識がわからない」

 雅斗さんは無事に専門学校を卒業、国家資格も取得して就職した。23歳になるころだった。30歳までは仕事が最優先で、女性との継続的なつきあいはほとんどなかった。行きずりの恋を繰り返しては、これが自分にはいちばん合っているとも思っていた。

ただ、美帆さんとの友人関係は続いていた。もはやすっかり友人としての関係が固まっていたのでかえってつきあいやすく、ときおり食事に行くようになっていた。彼女は相変わらず苦しいと言いながら、例の相手と不倫の恋を続けていた。雅斗さんはその愚痴も含めてのろけだと思うようになっていた。

「仕事は楽しかった。現場で働きながら、さらにスキルアップも目指しました。初めて目標というものができて、いつのまにか一生懸命に働いていたんです。上司に恵まれたんですよ。まるで父親のようにまるごと受け止めてくれる人で。彼のためにがんばろうと思えた」

 30歳を越えたころ、その上司に家庭をもつ気はないのかとなにげなく聞かれた。ないともあるとも言えなかった。家庭という言葉になじみがなかったからだ。雅斗さんは、あまり真剣な恋愛をしたことがないものでとお茶を濁した。

「結婚したいかどうかはわからなかったけど、周りは30歳を越えたら結婚するのが当然だと思っていることはよくわかりました。世間ってそういうものなんだなと。僕はいつまでたっても、世間の常識がわからないところがあるとも思いました」

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