未婚で僕を産み、ホステスとして働く母を侮辱され… 恋敵の“ひと言”で気づいた複雑な感情

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母からの“返事”に涙があふれ

 結果、母を好きにさせておくしかなかった。お金だけは適当に置いていってくれるので、彼は生活費と貯金にわけて堅実に暮らしていた。先のためにお金は貯めておかなければと考えていたという。

「勉強ができたわけでも好きなわけでもなかったから、中学を出たら手に職をつけようかと思ったこともあります。でも担任に『せめて高校は出ておいたほうがいい』と言われたので、公立高校に進学しました。母は何時に帰ってくるのか、そもそも帰ってくるかどうかもわからなかったので、いつもホワイトボードに伝言や必要事項を書いていたんです。返事はめったになかったけど。高校に合格したとき、ボードに~~高校に受かったと書いておいたら、珍しく母が『おめでとう』って。その文字を見たとき、涙があふれました。心が固くなっていたけど、やはり僕は母を求めているんだと自覚したから」

 これからは母とふたりでもう少し密な関係を作りたいと思った矢先、母は失踪した。3日たっても帰ってこなかったので警察に届を提出したものの、「おそらく男とどこかへ消えたのだろう」と雅斗さんは推測した。

「1週間後、母はしれっと戻ってきました。怒る気にもなれなかった。母は店もクビになり、家で『雅斗、ごめんね』と泣きながら飲んだくれていた。そんな母親に、おかあさんもかわいそうだったねと当時は思えない。正直に言うと、ぶん殴ってやりたかった。でもそんなことをしても無意味でしょ。無意味なことはしない。それが僕の根っことして刻まれた気がします」

挑発されて…

 人生をあきらめるとこうなるのかと彼は、冷徹な目で見ていたようだ。そして、ともすると人生をあきらめたくなる自分への反面教師にしようと決意した。

「でもね、人生、そううまくはいきません。その後、僕の女性関係はさんざんです。母親のせいにはしたくないけど、影響がないわけではないと思います」

 高校2年生の冬休み直前、彼は片思いしていた同級生に告白した。運よく、つきあえることになったのだが、彼女は別の高校の男子ともつきあっていた。彼はその男子と対決せざるを得なくなったという。

「自分を巡ってふたりの男子が闘うのを見たかったんでしょうかね。そんなのさっさと降りるつもりだったけど、挑発されて僕もその気になってしまった。ケンカなんてしたことがないし、あちらはけっこう派手に暴れて名を馳せていたタイプだったから、困ったなとは思いました。でも人間って挑発されるとその気になるんですね。相手が『おまえの母親って売春婦なんだろ』と言ったことで火がついた。あとには引けない。彼女のことなんてどうでもよかった。僕自身が母を否定しているのに、他人に言われるとカッとなった。あの一件では、自分でも自分が信用できなくなりました」

 結局、彼はボコボコにされて入院までする事態となった。それによって母が反省したのは意外な展開だった。母はせっせと見舞いに来て世話を焼いた。母にめんどうを見てもらったのは生まれて初めてだったかもしれないと彼は言う。

 ***

 こんな環境で育ったためか、雅斗さんの“恋愛観”は独特で…【後編】では、ふたりの女性と関係をもっているという彼の現在を紹介する。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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