「もう死にたい」と口にする不登校の少女が母親に心を開いたきっかけはYouTubeだった…小学1年生からタブレット学習が始まる時代の「親の役割」

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 近年、英語教育とともに親たちが注目しているのが、ICT機器を使った習い事やアプリ学習だ。いまや、小学校入学時にタブレットを支給されることも見慣れた風景となった。こうしたデバイスを幼少期から使わせることでどのような影響があるのか。『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略―中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)を上梓した小児科医・文教大学教育学部教授で、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表の成田奈緒子氏は「コミュニケーションの構築においてリスクがある」と語る。(前後編の後編)

顔が見えないコミュニケーションの弊害

 パソコンやタブレットなどを用いたICT教育が広まっている。子どもたちがデジタルデバイスを使って授業を受けることも増え、中にはスマホを使いこなしている小学生もいる。時代の流れではあるものの、子どものコミュニケーション能力への悪い影響が懸念されると成田氏は言う。

 脳科学を専門とする成田氏が知る例として、次のようなことがあった。

 小学生の頃からプログラミングにハマり、中学生のときにはアメリカ人や韓国人など世界の子どもたちと一緒にゲームを作っていた男の子がいた。彼らのやりとりは、もっぱらチャット。実際に会うことはない。ある日、ちょっとしたコミュニケーションのすれ違いから、お互いを批判する言葉が増えた。顔が見えないがために、批判はエスカレートしていく。最後は揉めに揉め、チームは空中分解。この一件のやりとりに精神を消耗した男の子は、嫌気がさしプログラミングをやらなくなった――。

「このように顔が見えないやりとりはどうしても誤解を招きやすいのです。特にバーバルコミュニケーション(言語によるコミュニケーション)、ノンバーバルコミュニケーション(表情など言葉以外のコミュニケーション)がまだ確立されていない発達段階の子どもたちが、チャットという機能を使って省略された言語の中でやりとりをすると、その言葉に含まれる感情が理解できなかったり、自分のいいように解釈してしまったりと、コミュニケーションにズレが生じやすいのです」

 その結果、何が起こるのか。

「社会に出ている大人であれば、相手を気遣ったり、気を回したり、ときには遠慮したりといった対応が身に付いていますが、子どもたちにはまだその経験が少ない。コミュニケーションには相手がいること、そして相手にも感情があること。その感情を汲み取って言葉を渡すことが大事であること。それを母語で学ぶ途中段階にいるのに、そこが欠落してしまうと、人とうまくコミュニケーションが取れず、孤立してしまったり、不登校になってしまったりするケースもあります」

ゲームより楽しいことがあれば依存しない

 とはいえ、今は小学校の授業でもタブレットが1人1台支給される時代。こうしたツールを持たせないというのは、現実的ではない。

「もちろん、ICT機器にメリットも多いのは事実です。特に情報収集という点では、活用しない手はありません。ただ、一番の懸念は、デバイスを使ったゲームなどをやめることができず、睡眠障害を引き起こしやすい点です。子どもの脳を育てるという観点で私が何よりも重視しているのは、早寝早起きと十分な睡眠時間の確保という『生活の軸』です。睡眠の大切さは世界の小児科医から利用されている教科書『ネルソン小児科学』にも記載され、理想は小学生が1日約10時間とされています。まずはこの生活の軸を守ったうえで、次に食事や入浴といった必要な時間を差し引き、余った時間に勉強でも、習い事でも、ゲームでも、好きなことをやればいい。でも、睡眠時間を削ってまで、やってしまうと、脳の発達に弊害が生じる。もし、仮に止められない状態なら、ゲーム依存の可能性も考えられます」

 最近では小学校低学年でもNintendo Switchなどのゲームにハマる子どもが多い。成田氏の話によると、「ゲームに依存しているように見える子どもは、ゲームに没頭する以外に不安を解消する手立てがないから、依存してしまう」のだと言う。

「つまり、ゲームにのめり込む以上に、安心できる環境や楽しいことがあれば、そこまで執着はしない。だからこそ、親は家庭の中に『安心』を与えてあげることが大事なのです」

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